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依-36 どちらが其れか
膝を立てて、両手は首に回して大きな体を抱きしめていた。慰めるように頭や背中に触れながら。
「どうしてそこまで考え込むのか分からないよ。俺、お前のことよく知らないんだ。ずっと見てるはずなのに。……聞いたら教えてくれるか?」
優しく声を落とすと、大きな体はわずかに身動ぐ。
「……聞いても意味ないと思う」
「……教えてくれないんだ」
「そうじゃない、けど……、言ったら今までの事もこの先も、全部無意識にそれに繋げられそうだから。お前は……最初からちゃんと俺を見てくれてるから、知る必要もないと、思って」
「……分かった」
悩んで考えた上で言わないのなら、そのままに受け止めるしかない。
少し離れて、その両肩に手を置く。震えは止まったけど、不安げな顔をして見上げてくる。しっかりと目を合わせて真剣に告げた。
「絶対嫌いにならないから。俺の言った事全部、ちゃんと覚えておけよ」
夏道はふと目線を横に外して、口を緩ませた。
「男らしいな」
「男だよ」
クスクスと小さく笑い始めた様子に、安堵して息をつく。
言いたかった事を言えて、伝わって良かった。
テーブルにあった教材に今更気づいて、慌てて閉じてノートを一番上にして重ねた。
背中を向けていると不意に腕を掴まれて、夏道の方を向かされたと思うや否や視界は天井を映す。
上に跨がった夏道が見下ろしてくるのも見た。一気に顔が熱くなる。
「な、何っ」
「今までの、ホントに嫌じゃなかったの?」
「っ……」
口端を僅かに上げて言いながら手の平で首を包んできて、喉元から顎を親指で撫でられた。両手を前に突っ張らせたが届かず夏道の腕を掴む。もう片方の手が肋 に沿って這い上がったかと思えば、するりと腰まで下りてグッと掴まれて咄嗟に口を押さえた。その手の平の熱は服越しでも伝わってゾクゾクする。
「これも嫌じゃないの?」
流れるように腰から下腹部へ辿られて震える足を曲げる。今手を離せば変な声しか出ない。返事をさせる気はあるのか。
眉を潜めて横目で見たら、俺の反応を愉しむように目尻を下げている。
嫌じゃない。
その手も、その表情も、伝えてくる熱も。
嫌じゃない、けど。
「……っ恥ずか……しぃ……っ」
片腕で顔を隠してすぐに口も塞いだ。近づいてくる気配がすると首元がその頭で埋まる。それぞれの手の動きはゆっくりになっても止まない。体がジンと痺れて次第に下腹部へ熱が集中し始める。
「嫌?」
「ぃ……や、じゃなぃ……っ…」
「聞こえない」
「っいやじゃ、ない……っ」
言えなくさせているくせにその返事が聞きたかったのか、やっと手を止めて上体を起こした。肩を揺らして息をする様子を見下ろして、満足げにしている。
「変なの」
言いながら可笑しそうに、でも嬉しそうに歯を見せて笑った。
その顔も、本当に……。
「変態……っ」
「それいったら嫌じゃないって言うお前の方がヘンタイだろ」
「こんな事するお前の方がそうだろっ!」
「依以外にこんな事しないし。あ、何されてもいいなんて、他のヤツには絶対言うなよ? こういうのも、されるなよ」
「言わないし、夏道以外にされるわけ無いだろ、早くどけよ変態野郎……っ」
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