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航-17 聞かされた事情
遠い親戚が亡くなったらしい。集会にはみんなよく集まる家系だから、オレも顔を知ってるし毎回挨拶していた。そんな人が亡くなったと聞いて、心のどこかに小さな穴が開いた気がした。
でもそれだけだった。涙は出なくて俯くだけで。
それが少し寂しいと思った。
昔から集会場の居心地を良く思ったことがないせいだ。
大人たちは自分の近況や世間話を交わして和気あいあいとしてたのに、ふとよく分からない話題に変わると口元を手で隠しながらヒソヒソと声を落として話しているのが、怖かった。無意識にその場を避けて鐘人さんと二人きりでいた。
オレの勘は当たっていた。
お葬儀はぼうっとしていたらいつの間にか落ち着いていて、大人たちは暗い雰囲気の中で話をしていた。
隅の壁にもたれて立っていると、おばさんが一人声をかけてきた。
「最近どう? お盆は来なかったでしょう、正月以来でもまた身長伸びたんじゃない? さすが男の子ねぇ」
「あはは、もっと伸びてくれたら良いんですけどね〜」
「ところで航くん……、ちょっと耳にしたのだけど……」
挨拶のおしゃべりは早々に、いきなり雰囲気を変えてきたから警戒して口を結んでしまう。おばさんはチラチラと周りを伺ってから声を小さくした。
「あなた、六堂さんの子と同居中なんですって? 六堂さんが体調崩されてもう三年くらいになるかしら、その子から何か……、聞いてない?」
「え、鐘人さんのお父さんって体調悪いんですか……?」
知らなかった事情に思わず質問を返してしまった。
三年って、鐘人さんが集まりに来なかった時期と被っている。お父さんを看病してたのか。
おばさんは予想外の反応をされたように驚いた。
「あなた、知らないの? 一緒に暮らしてるから色々聞いて知ってるものだと……」
「家の事情とか、そういうのは話さないから……」
「まぁ、確かに子供相手にはね……。遺産のこと聞きたかったけど、それも知らないわね。よければあなたから息子さんに聞いてみてくれない?」
「えっ」
残念そうに視線を逸らしたかと思えばまっすぐに戻してくる。ああ、そうだ、この空気だ。
「こんな時にごめんなさいね、でも大事なことのよ。前に亡くなった叔父様が莫大な遺産を遺言書も言伝もなく置き去りにしちゃって、相続とか面倒で大変だったの。だからみんな、生きてるうちに話をしようってなってね?」
言いづらそうにしていたのに、どんどん饒舌になっていく表情はいかにも真面目なものを作っているけど、声は少し弾んでいる。オレは弧を描いている口元をただ見ていた。
「六堂さん、そういうの話してくれなくって。息子さんには言ってるんじゃないかと思うのだけどあの子も来なくなったし……。何か聞いたら教えてちょうだいね。私にだけでも良いから」
まともに耳に入ってこなかった。と言うより、入れたくなかった。返事もろくにしていないのに、続けて話すのを聞かされていた。
「航くん、本当に何も知らないの? あの子のことも? もしかして何かされてるんじゃ……、 大丈夫なの?」
「それはどういう……」
「養子なのは流石に知っているでしょ? 不気味なのよ、あの子。亡くなった六堂さんの奥さんにそっくりだったの」
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