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航-19 お父さん

 黙り込んでしまうオレをみて、お父さんの方から切り出してくれた。 「鐘人君のことは僕も知っているんだ。良い話ではなくて、僕自身距離を置いていた。航と一緒にいるところを見たら、自分の子に何をされるかと怖くもなってね」  俯いたまま横目で聞いていると、オレの表情に気づいて慌てて両手を前に上げた。 「でもねっ、始めて言葉を交わしたとき、聞いてた話とまるで違う雰囲気を感じたんだよっ。物腰の柔らかさは、決して気味の悪いとかそういうんじゃなくて、純粋に優しい子だと解ったんだ。お前もすごく懐いていたしなおさらね?」 「……オレ、鐘人さんから少し聞いてたんだ。でも何だかよく分からなくなって、混乱してる」  こぼすように言うオレに、両手を下げて眉も下がった笑みに変わる。 「僕が知っているのは、さっきおばさんが話してた内容と同じでね。本当の事を知りたいなら本人に聞くといい。お前との仲なら、鐘人君は話してくれると思うよ」  聞けば、話してくれるだろうさ。  そういう人だから。  ……でも、鐘人さんからちゃんと聞きたい。  朝に別れたばかりだけど、無性に会いたくなった。 「帰りたい……」  口をついて出ていた。  もう遅いからと止められて結局一泊することになった。お父さんと同じ部屋で布団を並べた。こうして一緒に寝るのは久しぶりだ。 「勉強の方はどうなんだ? 頭良いのに、またサボったって聞いたよ」 「エッ、誰に」 「鐘人君に」 「鐘人さんと連絡取りあってるのっ!?」 「そりゃあ、息子を預けてるからね。航は日常のことは聞かせてくれるけど、勉強についてはからっきしだから」 「オレの知らないところでぇ……。やだな〜怖いな〜」 「あはは。でも、前よりはきちんと頑張ってるみたいだから親として安心してるよ」 「そうですかぁ〜」  しばらくお喋りをしてから横になった。  隣の顔をじっと見つめていると落ち着けた。 「お父さん、オレね、お父さんのことは大好きだよ」  微笑いながら言うとほほ笑みを返してくれる。 「お父さんも、航が大好きだよ」  くすぐったくて二人でクスクス笑った。  寂しくて、怖くて、でもちょっぴり楽しい一日だった。

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