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依-39 カイロ
俺と夏道の家の中間にある小さな公園は、すっかり待ち合わせの場所になっている。
敷地内を囲む木々も鮮やかな秋色に変わり枯葉が落ち始めていて、一本の外灯に照らされた夜の紅葉も風情がある。
久々に近くで顔を合わせた夏道は、隣に座って積もった話を一つずつ話している。一つは不満気に、一つは可笑しそうに、表情をコロコロ変えながら。時折視線を向けてきて、それ以外は俺がずっと横顔を眺めていた。
大会の結果は準優勝だった。こいつは悔しがっていたけど、春の大会には行けるというのでひと安心した。
聞くところによると地区内の強豪校と毎度接戦しているらしい。野球ドラマのような内容をぼんやりと聞いていた。
冬を感じる風に乗って落ち葉が足元に寄ってきたのを見ながら手をこすり合わせていると、夏道の視線が向いて気づかれた。
「わりぃ、寒いよな。……帰るか」
「うん……」
重い腰を上げた後、不意に両手を取られた。
すっぽりと収める夏道の両手はゴツゴツとしていて手の平にはマメもできていた。部活に励んで頑張っている手だ。暖かくて、包まれた指の先がジンとしてくる。
いつもなら恥ずかしさで気が引けるけど、この時期のこの温もりには惹かれる。
「……お前って年中熱いよな」
「よく言われる」
「いいよ……、もうあったまった」
「じゃあ次こっち」
あっさり引いた分厚い手を見送ったつもりが近づいてきた。触れられた瞬間、頬も冷たかったのかと気づく。目を丸くする俺を見て夏道はイタズラな顔で笑った。
「あったかい?」
じんわりと染みわたる温もりに顔が綻ぶ。
頷くとくすくす笑うのが聞こえて、もう片手も来て頬全体を包まれた。
癪 だが、ぼうっとしてされるがまま顔を預ける。こちらの片手も被せて暖をとった。
「気持ちいい……」
思わず微笑みをこぼした。寒さに乗じて遠慮なく触れられるので密かに喜んでしまう。
夏道の手は暖かくて気持ちがいい。
十分に温まると瞼を上げた。
「……っ」
鼻先が触れそうな距離に夏道の顔があって静かに驚いた。
首を傾けてなお近づいてこられて唇が震える。
近い。
熱い。
下を向いていた視線がゆっくりと上がってきて結ばれると、鼓動が跳ねて騒がしくなった。真面目な表情をする夏道は何も言わずに、再び目を伏せて、片手を解くと温まった頬に唇をあてた。
何をされたのかは分かるけど到底理解できない。
離れたその顔は目を細くして笑っていて、じっと見つめられて胸が苦しくなる。
「あったまったみたいだな」
包む手から伸びる親指で唇をひと撫でされた。反射的に瞼をぎゅっと閉じてしまうけど間を置かず首に腕が回って抱き締められた。
ただの温もりに熱が混ざって、顔全体赤くなっていると思う。
何をしようとしたの。
何をしたの。
こんな、こんなことを、なんで。
「お前、カイロみたい」
小さな笑い声が耳をくすぐった。
それはこっちの台詞だと、言い返せなかった。
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