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依-43 距離感

 海夏さんは誰かさんと違って口が固いしあの性格だ。あくまで弟の友達の話を母親にしたんだ、きっと。  感の鋭い海夏さんに聞いたと言われて変に焦ってしまった。隠したい気持ちを持つ俺が悪いのに、疑ったりして申し訳ない。  ……友達だから、この気持ちは隠さなきゃいけないんだ。  俺は一生に耐え続けるんだろうか。  自信が無い。  俯いていると不意に背後から口を塞がれて倒れ込んだ。 「っ……!?」  すぐさま腕の中に閉じ込められて、驚く俺を目を開けている夏道が静かに見下ろした。  こいつまさか……っ。 「っ起きてたの……っ?」  覆う指を掴んで開いた隙間から空気を吸って、塞いだ意図を察したうえで小声で言った。  夏道は頷いてくったりと横になる。  腕と脚で拘束するように抱き締めてくる。 「い、いつから……」 「……母さんの声、聞こえて」 「話聞いてたの……?」 「うん」  ……ビックリした。  心臓が、一瞬止まった。  密着しているからこの動揺は明らかな筈だけど、後ろから聞こえる声はぼんやりとして落ち着いている。 「……おばさん、お前の顔見にきたって」 「うん」 「……今日の仕事は夕方からだって。起きたなら顔出しに行けば……?」 「夜勤だから、もう寝てると思う」 「……」  思う所があるのか、ただ寝ぼけてるだけなのか、ボソボソとした返事だ。  話すたび動く顎が後頭部に当たるので、首だけでもと前にずらした。 「試合……、観に来てたんだな……」  独り言のように呟くとまた一つ抱擁してくる。  夏道が今どんな気持ちでいるのか気になっていた。さっき思った通り二人には何か距離があるみたいだ。  おばさんが内緒にしたがっていた事も聞かれてしまったんだな……。  こいつは今、どんな顔をしているんだろう。  羞恥心を感じる雰囲気でもなくて沈黙の中で大人しくしていた。 「……お前、寝たふり出来たの」  冷静さを取り戻してから思っていたことを囁いた。 「さぁ。寝たふりっていうか寝ぼけてたし」 「起きたのって、おばさんの声がしてから……?」 「うん」 「……そう」  こいつは自分から起きるまで意識は無いはずだ。叩いても動かそうとしても寝返りすらうたずビクともしない。  だから、いつも俺が寝てる間に悪戯しているのは知らない、はず……。  これ以上は何も聞くまい。  さっきから焦りすぎだ。  深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。  ……それにしても、近いな。

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