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誠志郎-11 滝のようなうわ言

 大会が終わった後、夏道にバッティングセンターへ誘われた。  二人きりで。  鈍いくせに、前にちらっと伺っていた心配事をきちんと聞く為に誘ってくれたんだろう。俺が今言うことなんて無いけど、二人で遊べるのはめちゃくちゃ嬉しい。  だから楽しみにしてた。 「毎度の事だからそうなるかなって思ったけどさ……、今回は日を改めて欲しかったなあっ!」  ベッドで寝込んでいる奴の側に顔を落として叫んだ。 「ドンマイ」  顔に片腕を被せて具合の悪さに耐えながらも冷やかしてくる。黙って自分の頭を冷やしてろよ。 「折角の誘い断っちまったじゃねぇか……。どう責任取ってくれんだよ」 「……カラダで?」 「寝言は寝て言え」  大護は昔から体が丈夫で、日頃も元気に、試合には絶好調で活躍する。  その反動なのか、大事な時期を越した直後だけ風邪を引いて丸二日寝込む。  家族がいない時には日頃から世話になっている俺が行って看病することになっていた。いつの間にか。  俺は当たり前のように合鍵を持っていて家に上がり、たまご雑炊を作りつつ薬と冷却シートを取り出して部屋へ行き、寝込んでる奴にやった。  この時点で我に帰る。  何で俺がこんな事やってんの。  ピピッと体温計が鳴ったのに気づいて、大護から受け取って見た。  三十八度一分。微かに眉を寄せて苦しそうにしているコイツは、今日初めて目を合わせた。  ぼんやりとした表情で小首を傾げている。 「……誠だ」 「今気付いたのか? さっきから会話してたと思うんだが」 「……フフ」 「……なんだよ」  横になって布団を掛けようとするのを見て、手で引っ張って手伝うとクスクス笑われたので頭まで掛ける。 「…とにかく、一日で治せよ。明日は日曜だしワンチャンある」  夏道との約束はまだ諦めていない。  しかめ面で言い聞かせると、布団の山が静かになった。 「やだ」 「んだとコラ」 「こういう時しか構ってくれないから」  顔だけ出すとじっと見つめてきた。  熱のせいで頬が少し赤いからいつもより幼く見える。 「俺も誠と一緒にいたいから。約束と被ったのは偶然だけどしてやったりで楽しいし、何だかんだ毎回ずっと居てくれるし独り占めできて凄く嬉しい。具合悪いのはキツイけど誠が居るから、幸せ」 「……あっそ」  意識がはっきりしてない時のコイツは普段より表情が豊かで饒舌になる。目元や口が分かりやすく動く程度だけど、終始真顔とのギャップは十分あった。  バカ素直にボソボソと、側にいると延々喋ってくる。  告白した後だからか、直球なことまで言いやがった。 「ひねくれてるくせにする事は誠実でさ。名前を裏切らない性格好きだわ」 「そりゃドーモ」 「野球もモテるかなっていう浅い動機で始めたのに、周りに感化されて本気になっていったのは見てて面白かったし、アイツを見る目がキラキラしてて、話したあと嬉しそうにニヤけてるのも、可愛くて。いつもアイツのこと、仲間としても好きな相手としても大事に思ってる姿勢も好き。それ全部、俺に向けばいいのにって思ってる……」  聞かされる俺の気持ちを考えてほしい。  食器をお盆にまとめながらなるべく聞き流した。 「あと……、荒い話し方なのに、態度は優しいのも、好き……頭いたい」 「寝ろや」

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