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誠志郎-13 大護の妹

「おかえり一華( いちか)ちゃん。大護は、さっき見に行った時は熱少し下がってた。まだ寝てるよ」 「そうですか。これお土産と言う名の残り物のフライドポテトです、あげます」 「残り物を人にやるのどうかと思うけど、ありがとね」  それを見て昼飯を食べていなかったのを思い出した。  時計は午後三時くらいになっていて、外からの明かりは心もとない。一華ちゃんもカーテンの方を見ると歩み寄って閉めて、俺がリビングの明かりを付けた。  ゴロウは遊びに満足してくれたようでソファーの脚元に伏せて寛いでいる。 「お昼食べました?」 「これから」 「インスタントラーメンにしますか」 「俺は家から持ってきたのあるから、お湯だけちょうだい」 「どうぞ」  リビングの低いテーブルに遅い昼食を並べた。  器に手を添えてラーメンを啜る子を横目に、フライドポテトをつまみながらカップ麺とおにぎりを食べる自分を客観視する。  休日の昼飯ってこんなもんだよな。  女の子は早い内からカロリーとか気にしてそうだけど、この子はその辺気にせず料理もしない。大護が良くしてるから。 「お兄ちゃん、またうわ言言ってました?」 「えっ、あぁ、まぁね」 「何言ってました?」 「特に……どうでもいい事とか」 「この前は私のこと言ってたんです。背小さいから牛乳ちゃんと飲めって、まだ中二だし伸びしろあるのに。あと早い年から化粧するなとか、ご飯ちゃんと食えとか親みたいなことばっかり」  兄に比べて結構喋る妹だ。表情は動かないけど小さな口がよく動く。  咀嚼しながらでも言うので「ちゃんと飲み込んでから話しなよ」と俺まで親みたいなこと言いそうになったのは思わずこらえた。 「あ、化粧するなって言うのは素顔が可愛いからとも言われたんですけど、どうなんですかねあれ。シスコンですかね」 「妹思いって事でしょ、犬猿の仲よりは全然良いじゃん」 「誠くんも言われませんか、“貴方のどこが好きか列挙(れっきょ)”」 「……言われる」 「ご馳走様です」  スパンと会話を切るように、食べ終えた一華ちゃんは手を合わせて言った。  無駄の無い静かな動きで器を洗い場の桶に入れてくると、俺は気づかなかった黒色の収納かごの中にいるクロさんを抱き上げてこちらを向いた。 「お兄ちゃんのことこれからもお願いします」 「あぁ、うん」  時折彼女の言葉選びに引っかかりを覚えるけど、そういう子なんだと思う。  廊下へ出るのを何となく目で追うと、出て行ったドアから半身を戻してじっと見つめてきた。 「私は自室にこもりますが、決して覗かないでください」 「うん」 「まぁ覗いてもいいんですけどその後の事は保証できませんので、悪しからず」 「覗かないよっ」  苦笑いしながら言い聞かせると黙って姿を消した。  ……うん。大護に似て変なテンションの子だ。  ふと、どことなく目線を流す。  頻繁に接するのがあの子だからか、女の子に対してドキドキしたりする事が無い。可愛いと思うけどそれまでで。  男子といる方が楽しいと思っていて、感情の揺れも度々ある。  やっぱり俺は男が恋愛対象なんだなと、一華ちゃんを見ては改めて思う。 「……アイツの様子でも見に行くか」  最後の一口を食べて腰を上げた。

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