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誠志郎-14 名に恥じぬ事で恥じる
音を立てずドアを開けて入って、眠っている奴の額に触れた。
「大分下がったかな」
「……はらへった」
「起きてたのか」
手を離すと、大護が眠気まなこで見てきた。ゴソゴソと寝返りをうって顔を合わせてくる。
いつも一日目で熱が上がって下がり二日目は微熱が続くから、今もまだ元気はない。咳や鼻水があまり出てなくて一見風邪か分かりにくいけど、汗が酷くて怠そうにしている。
「先に着替えねぇ?」
「ううん。昨日の野菜スープの残り……、食った?」
「あるのも知らなかった」
「それ……」
「了解。あ、一華ちゃん帰ってきたぞ」
「うん。さっき一発芸しにきた」
ほんとシュールな兄妹だな。一発芸は地味に気になるけど、まぁどうでもいい。
キッチンに行って目当ての物を探してみると、冷蔵庫の中に鍋に入ったままのそれを見つけた。雑炊作る時も目にしたけど中身までは見なかったからな。
トマトスープにキャベツなどの野菜が沢山入っていて、小さく切ったベーコンもあって美味そうだ。
ガスコンロで温めて味見してみるとコンソメ味で、野菜の旨味も感じられて美味しい。この残りのスープで雑炊を作るのもアリだったかな。
器に盛り部屋に持って上がった。大護は体を起こしていて、だるそうな腕を伸ばしている。
箸と一緒に器を渡すと短く礼を言ってから大人しく食べ始めた。
「それ、お前が作ったの?」
「うん……?」
「それ」
「うん」
「ふぅん」
テーブルに頬杖をつきながら何の気なしに様子を眺めて、食べ終わると薬と水を渡した。
自分の慣れた動作に呆れながらも立ち上がってクローゼットを開く。
コイツの部屋も黒色が多い。
ベッド、棚や目隠しの布、四角い絨毯、勉強机やカーテンは薄色でもモノトーンな空間で、初見の人はこの家に来ると気が変になるかもな。
幸い柄付きだったり、白壁にフローリングの床が濃いブラウンで、洒落たインテリアルームっぽいと言えなくもない。
これまた黒の収納ケースから長袖の上下を適当に取り出した。
「はい」
「……やって」
「自分で着れるだろ」
さり気無く目を逸らして見ないようにした。なんとなく。
ベッドの軋む音を耳にして着替えだしたのを察して、ボーっと部屋の中を見渡して場を繋いだ。
「……あ、脱いだやつ寄こせ。洗濯カゴに入れてくる」
「はい」
違和感のない程度に視線を外しながら受け取る。やはり結構汗をかいたようで湿っていて薄手の長袖が重い。
着替えてスッキリしただろうと思いながらおもむろに大護を見た。
「…っ、上も早く着ろよっ!」
「きゃー」
「黙れゴリラ」
「ゴリラほどじゃないけど」
勢いよく顔を背けてしまい完全におかしな態度をとった自分に内心舌打ちする。
下は履いてたけど上が裸だった。
まあ相変わらずいい身体つきで御座いますことよ、クソ。
横目で睨み見て、いそいそと着るのを確認する。着替え終えてもまだクスクス笑う奴に眉を寄せながら口を開いた。
でも、かち合った視線に、喉元まできた文句が引っ込んでしまった。
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