108 / 161
誠志郎-17 想いとは別に
もしかして俺の前でだけ笑うのかと思ってさり気無く一華ちゃんに聞いてみると、一華ちゃんも見たことあるらしい。
なんだ、と思ってしまった自分にはビンタした。
誰の前でもああなればよく笑うし、酒でもきっと笑い上戸になるんだろう。どうでもいいけど。
二日間の内で言ったことを覚えてないのも好都合。
どんなに想いを寄せられても、俺は受け止められないし。
「変顔すごい」
朝一番に顔を合わせたコイツはスッキリとした真顔だった。
日課の待ち合わせにも時間通りに来て、ゴロウもかわらず尻尾をふって準備万端でいる。
見ていると昨日までのアレコレをまた思い出した。
苦虫を噛み潰したような顔を指摘されて、「誰の所為だ」と言わんばかりに眉間のシワを深くする。
「うるせぇよ」
無愛想を全開にしてゴロウには笑顔を向けた。
早速並んで走り出すと、ふたりは軽快な足取りで坂を駆け上がっていく。
今回もまあ覚えてないらしく、寝込んでいたのを思わせない姿には呆れるほど感心した。
ちら、と横目で見ればいつも通り……。
「……なに」
互いの足取りはそのままでも昨日の雰囲気が続いている感覚がして声まで揺れた。
いつも通り、前を向いてるのかと思えば目が合って内心驚いた。
大護は返事なく前を向く。
いや、何だよ。
その後何度か伺うように目線をやってみたけど走り終わるまで合わなかった。
いつも通り、考えてることも分からなくなっている。
俺の好きな相手は変わってないし揺らいでもいない。
でも俺はコイツの本心を知った。気づけばコイツの事ばかり考えていたりする。
自分だけ気まずさを感じてなんだか腹が立って、なんで覚えてないんだよと、矛盾なことを思った。
ともだちにシェアしよう!

