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夏道-19 似たところ

「なんだ、こっちが先にバレたんだ」 「他にもあるのかよ」 「さぁね」  問い詰めるまでもなく姉貴はすぐ口を割った。  母さんが試合を観に来てた事。  俺は思いも寄らなくて観客席を探したこともなかった。家の中でばったり会った時にそんな話はしなかったし、部活や学校のことさえほとんど話してないから。  見てくれてたなんて知らなかった。  姉貴は物干し竿から乾いた洗濯物を取って次々に放ってきて、俺はその中から自分の長袖の部屋着を取る。 「俺の事なんか言ってた?」 「すごいとか、頑張ってるのねとか」 「……ふぅん」  思わずニヤついて手が止まる。 「嫌われてないのかな」  そう言うと、姉貴がタオルを鞭のようにして横っ腹に当ててきた。「なんで叩くんだ」と目で言うと、無視して伏せ目がちにタオルを畳んだ。 「最初から嫌われてないよ」  ぶっきら棒に呟かれた言葉が胸の中でじんわり広がって、口は緩むのに眉が寄って複雑になる顔を切り替えるように服を被った。  洗濯物は家族みんなの服が混じって一つの小さな山になっていて、姉貴と一枚ずつ丁寧に畳んだ。  女物は小さい頃から見てるし気にしないけど、この色が、柄が好きなのかなと考えたりする。  母さんのは黒や紺色、茶色や暗い色のワンポイント柄が多い。お洒落には気を使わないタイプなのか、こういうのが好きなのか。俺のも似た感じだからサイズの違いで見分けて取る。  食器や歯ブラシとか他の物でも母さんの存在を感じてた。  同じ家に住んでるのにこう言うのは、変だろうとは思うけど。  本当は俺も、昼に寝ている姿や居間にいるのをドアの隙間からこっそり見ていたりする。  やってる事が同じで、それも少し嬉しかった。 「ていうか来すぎじゃね? ちゃんと彼氏と同棲できてんの?」 「私の事より、そっちはどうなのさ」 「どこ」 「依とアンタ」 「あぁ……」  畳み終わって、片付けもせず取りやすい隅に置かれた服を横目に話していると聞き返された。姉貴はタンスも彼氏の家に持っていったから、こういう時は母さんの所に一緒に入れてるのを最近は面倒くさがってああして置きっぱなしだ。  自分のを持って部屋に行こうとしたけど、浮かせた腰を床に戻した。  俺が依を恋愛感情込みで好きなのを、言うより先に姉貴は知っていた。  初めてうちに連れてきた時から勘付いていたらしい。当人の俺より先に気づかれてたのは流石に驚いた。 「別に何もないよ」 「付き合わないの?」 「その辺はどうでもよくなったかな……、今の感じで十分だわ」 「へぇ。自覚したら即自分のものにするのかと思った」 「それは思ったけどな。でもさぁ」  アイツが言ってくれたことを思い出すと今でも顔が緩みきってしまう。崩れた表情を見た姉貴は呆れた笑顔で「何さ」と言った。 「一生一緒にいてくれるなら、それで十分過ぎるだろ」 「ホントにそんなこと言われたの?」 「ずっと一緒に居たいって」 「……ふぅん」  つまらなそうな顔をされた。今度はこっちが「何だよ」と言う前に姉貴は立ち上がって風呂へ向かった。  何だよ。

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