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依-45 往生際の悪さ

 夏道に告白する。  タイミング悪くバレる前にきちんと話したい。  そう決めたものの、機会を伺うだけで言えずにいる。  学校の昼休み、夜に公園で会った時、休みの日、何処にいても勇気を出せない。悩み込んでいるのは鈍感な奴でも分かるようで、心配そうに声を掛けられたけど誤魔化した。  もうすぐ合宿へ行ってしまうのは分かっているけど、ずっと言わずにいた訳を簡単には消せない。 「天ぷら食べたの……?」 「いや? 何で?」  昼飯はそれぞれの教室で食べてきたので分からず、思いがけない違和感にきょとんとしてしまい聞かずにはいられなかった。 「唇に油ついてるみたいだから」 「あぁ、お前みたいにリップ塗ってみたんだよ」 「へぇ……」 「似合わねぇよな」 「分かってるならどうして」  自分の事でも可笑しそうに笑っていて、つられる口元をさり気無く隠しながら聞くと「ガサガサよりはいいだろ」と唇を軽く拭った。階段に腰を下ろすと夏道も同じく隣にきて一息つくように沈黙する。  外は寒くて中庭に出れず、今日は人通りがほぼ無い三階の階段で会っている。図書室へ誘ったけど「人が多い」と却下された。  束の間の横顔をもう一度目に収めて俯く。  会話が途絶えた今はどうだろう。  さっきの話題からの告白は難しいか。  どんな風に切り出せばいいだろう。  ただ「好き」と言うだけでは理解されないのは分かっている。  どう言えば伝わるだろうか。  なるべく困らせない様に、出来るならこれからも一緒にいれる様に、重い気持ちを軽く伝える言い方が良い。 「依?」  ハッとして隣の顔を見上げる。心配そうにしてくれるのに口を開けても何も出てこなくて、目が合う前に顔を逸らした。 「お前がそんな顔してるの、嫌なんだけど」  言いたいことが喉元で詰まっている。それを止めている思いはとても頑なで。 「……そのうち……、言う」  夏道は返事の代わりに柔らかく頭を撫でてきた。  やっと出せた言葉は一層自分を追い込むもので、舌の根が乾く前にやっぱり何でもないと下手な誤魔化しをしたくなったけど、その優しさに息が詰まる。  下から聞こえる足音が響くなか二人並んで座っている。人の気配を感じても誰も上がっては来なくて、このまま二人きりの空気に沈んでしまいたい。  徐ろに手が下りてくると首筋に触れて、反射的にすくめた。  小動物を可愛がるように指の腹でさすってくる。 「首は流石にあったかいな」  落ち着かせるような穏やかで静かな声が、耳から入って体に染み込んだ。  夏道が好き。  誰よりも何よりも好きでたまらない。  ゴツゴツしている大きな手も優しくて暖かくて、もっと触ってほしくなる。眼差しはいつも真っ直ぐで細く見つめられるとドキドキする。  大柄でも大人しくて真面目で、一所懸命に頑張っている姿が格好良くて、好きだ。  頭の中で言っても意味はなくて、ただ膝を抱えた。

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