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夏道-20 その手

 このままで十分だと思えた。  無意識に捕まえていた存在から手を離す事で、俺はあの人とは違うと示せる気もして、この関係で縛るのを辞めにしたいと考えることが出来た。  自分がちゃんと成長できていて内心安心もしている。  ずっと一緒に居てくれたら俺はきっと大丈夫だ。……そう、思ったのに。 「付き合うのはやめにしようと思って」  合宿へ向かう日だけど思い立ったが吉日で、早朝に依の家に行った。  俺の習慣につられてかアイツも早起きで平気な顔をしていて、白み始めた空の下に出てきた。  最初誘った時と同じで唐突なのは悪いけど、晴れた気持ちを早く伝えたかったんだ。 「そんな関係でなくたって、一生友達で居てくれるんだろ?」  それで十分だと笑って最後まで言うと、目の前で聞いていた奴の様子がおかしい事に気づいた。  目を丸くして驚いていて、眉尻が下がってそのまま俯いたから俺のワガママさ加減に怒ったかと顔を覗こうとすると、先に雫が落ちるのを見た。  そこだけ雨が降ったみたいに地面が色を濃くして、不思議に顔を見ると俺も驚いた。 「なんで泣くんだよ」  鼻まですすっていて、震える肩を優しく撫でるとついには嗚咽を漏らして本格的に泣かれてしまった。 「……めん…っ……」 「ん?」  顔を隠すように上げたその手を掴んで聞き返す。 「おれ……無理……」 「何が無理なんだ」 「ともだち……」  掴んだ手が、すり落ちていった。 「ごめん、夏道……、友達は……もういやなんだ」

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