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依-46 決壊
限界なのは解っていた。それでも言わずにいたのだから本当に自業自得だ。
今日はいい天気だ。
合宿にも丁度良くあいつは喜んでいるだろうと、朝早く目覚めた俺はカーテンを開いて空を見ていた。会いに来てくれて、頑張れと言って見送れると浮ついた。
ここまでとは思わなかった。
ずっと抑えていたものが呆気無く崩れるほど、夏道から言われるのは辛かった。
「友達」
そんなごく当たり前の言葉が、こんなにも悲しいのかと。
「ごめん……、友達は、いやだ……」
後悔の渦に飲まれながら、黙っている顔を見上げた。何も映してない様な目で固まる姿に罪悪感が沸く。
「好きなんだ、夏道のこと……」
本当の事を言うしかなかった。
滲む視界でも見つめて言うと、目を合わせてくれた気がする。
「好きなら……、なんで」
「違うんだ、俺の好きは違う……そんなものじゃない……っ。ずっと好きだった、友達なんて思ってなかった、他の人と幸せになるのは見たくない、誰にも譲りたくないっ、俺が……夏道の隣にいたいんだ」
堪らず下を向いて心のままに口が動く。
隣に居れなくてもいいとか、この感情を抜きにしていいなんて真っ赤な嘘だ。
誰よりも側に居たくて、ずっと一緒に居たいんだ。
いつの日か仕舞い込んだ気持ちは消えずにずっと残っていた。
「夏道が好きで、どうしようもないんだ……」
風は体を刺すように冷たくて、涙も凍るんじゃないかと思いの端に居ると、頬に触れた温かさに顔が上がる。
涙で濡れた唇に夏道が触れた。
驚いて、震える手で突っぱねた。
「……こういう意味じゃないの?」
「そうだけどっ、だから……」
「キスもセックスもしたい方の好きなんだろ?」
「セ……ッ!?」
思わず仰け反った背が捕まって引き寄せられた。涙が止まらなくて気持ちも混乱してるうえに、不意の単語で固まる。きつく抱き締められて、頭上で酷くため息を吐くのを聞いた。
「あー、ビクッた……。驚かせんなアホ」
「っ、ごめん……」
今から合宿へ行かなければいけないのに、本当にタイミングが悪い。
こんな筈じゃなかった。もっとちゃんとしたかった。
「泣くな依、大丈夫だから」
宥めるように屈んで顔を合わせてくれて、両手で涙を拭われる自分が情けない。
「俺も好きだよ」
「違う……」
「違わない、お前の好きと一緒」
耳に入ってくる言葉に、自然と涙が止まった。
夏道は微笑っていた。
「お前もそう思ってくれてるんなら、今度は本当の意味で恋人になってほしい」
自分の目が丸くなる。
「……なんで……?」
「何でって、好きだから」
「俺、男なのに……」
「え、うん、俺も男」
男なのは分かりきっている。今まで「好き」を言われ過ぎて、本当に同じ思いなのか分からないんだ。
もう一度確かめたくて口を開こうにもまた胸元にくっついてしまった。
「ハァ……、今か」
「ごめん……」
やっと腕から離されて頭にポンと手を置かれる。
「とりあえず行ってくるわ。帰ったらゆっくり話そうぜ」
朗らかな笑顔に、理解できないまま頷いた。
……あ。
「な、夏道! ……頑張って」
着いて行けない背中を呼び止めて、忘れかけていた言葉を投げると、夏道は笑って手を挙げて答えた。
夏道が、俺を好き……?
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