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夏道-21 曇の上は晴れ

 ビックリした。  自分の整理がつき始めた矢先に、元いた所より真っ暗な場所に突き落とされた気分になった。  好きと言われたのも驚いた。  潰れかけた自分の心臓と泣きっぱなしのあの顔で戸惑ったけど、好きの意味が同じだったのは嬉しい。すごく嬉しい。  ……欲張っていいのかな。  ホントはアイツの全部が欲しかった。  誰にも譲りたくないなんて、それは俺がずっと思っていたことだ。  抑えたばかりの蓋が開いてしまう。 「顔こえーぞ」 「……え?」  掛けられた声と一緒に、バスの走行音と監督の話している声が耳を突いた。  我に返って、窓とは反対の方に顔を向けると誠と目が合う。 「見えたのか」 「窓に映ってた。お前の顔ってコロコロ変わるよな」 「あぁ、かもな……」  視線が漂って、また今朝のことを思い出す。  言うつもりでいたのはこのことか。  触られるのが嫌じゃなくても恥ずかしがるのは、そういう意味だったのか。  よりによって今知るとか。こんな時に会いに行った俺も俺だけど。  途端、周りのみんなが一斉に何かの返事をした。  話終えた監督が座席に座るのを見て、なんて言ってたか誠に聞いてしまう。俺らしくない。  ダメだ。  何を考えたところで次会えるのは一週間後だし、いつものように切り替えよう。  窓枠に置いていた肘を下ろして姿勢を直して息をつく。  横目で見た空は曇っていたけど、陽は負けずに光を通して明るかった。 「合宿のメニューさ、ヤバくね? 楽しんでる場合じゃなさそう。先輩達の言う通り地獄が待ってそうだ」  苦笑しながら初っ端ボヤき始める奴につられて笑った。

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