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依-47 時差の困惑

 夏道が俺を好き?  俺と同じ意味で……? 「わあ! 良かったねっ!!」  当たり前に向かい合わせにした椅子に腰掛けて、自分のことの様に嬉々としてそう言ってくれたけど、朝早くの静かな教室ではよく響いて、声を落とすように言った。  停止して動かない頭をどうにかしようと、友人を頼って待ち合わせた。  校門が開くより先に登校して、あくびをしながら開けにきてくれた教頭先生と挨拶を交わした時は気付かれなかった。早めに来てくれた航にはまず目の腫れを心配された。俺は適当な返事だけをして長い前髪で隠した。  まだ今朝のことをうまく飲み込めていない。 「良かったの……?」 「良くないの?」 「だって俺男だし、男の俺を、そういう意味で好きな理由が分からなくて……」 「すんごいブーメランだよそれ。いっくんだって男の夏道君を好きなのに」 「いや……、俺は……」  航は抱きかかえたままでいた鞄を机のフックに掛けた。 「いっくんもオレと似てると思うんだよね。違うのは、同性を好きな気持ちを認めきれてないってとこかな」 「……俺があいつを好きなのは認めてるよ」 「夏道君がいっくんを好きなのは分からないんでしょう? それってやっぱり、心のどこかで男が男を好きになるのはおかしいと思ってるって事でしょう?」  ……なるほど。  そう言われると、思い当たる節が一つあった。  この気持ちを複雑にした始まりがある。  航は、周りに秘密にしているけど、自分の気持ちや性癖も認めていて恋愛を楽しんでいる。  そんな人間だからか、俺の事もすんなりと受け入れてくれた。今回も真面目に話を聞いてくれて、考えた上での言葉をくれる。不真面目な部分もあるけど本当にいい友人だ。  おかげで思考が正常に戻って考え込んでいると、その視線とかち合った。 「あ、ごめん。ありがとう……、聞いてくれて」  航は笑顔で首を横に振る。 「大丈夫?」  「うん」と答えようとした時、あいつに言われた事を思い出した。  ──「俺も好きだよ」  大丈夫じゃ無い。 「どうしよう……、あいつに好きって言われた……」 「うん、最初に聞いたよ」 「今度はほんとの意味で恋人になってほしいって……」 「それも聞いたよ」 「どど、どうしよう……」 「ループかな?」  今までの好きは何だったんだ。それも今朝言った意味と同じなのか。  いつから。  今までされた事はただの過度なスキンシップでは無かったのか。  どっちだ。  記憶が走馬灯のように巡って次第に頭を抱えた。あの視線は、あの言葉は、あの反応は、態度は。  嗚呼。本当にタイミングが悪い。  直ぐに確かめたくて顔が熱いのに、あいつは暫く帰って来ない。 「リンゴみたいだ」  顔を隠す手の隙間を覗きこまれて笑われても構う余裕はない。 「どうしよう……」

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