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依-48 強制イベント
「い、嫌です!」
「イヤかどうかじゃないんだよ、私が着てほしいから着るんだよ」
「大人しくなったと思ったのに……、いい加減やめてください俺で遊ぶの……」
「無理」
「即答……」
迂闊だった。
あの日のことでずっと頭がいっぱいで、塾も講習も前半期間は上の空だった。
どうして俺の連絡先を知っていたのかもよぎらずに電話を受けて、呼ばれるままノコノコ出向き、本題を耳に入れるまではいはい聞いていた。
耳を疑って顔を上げると、可愛らしいクリスマス衣装を嬉しげに見せる海夏さんがいた。
迂闊だった。
大学生になり彼氏もできて、こっちには構わなくなったと油断していた。
ニヤニヤとした期待の眼差しを向けられ、「イタズラするお姉さん」は健在だと呆れて目を逸らす。似た者姉弟との過去の記憶が蘇る。
というか、海夏さんにしては珍しい服だ。
「どうしたんですか、これ……」
「さっき言ったけど。ケーキ屋のバイトで着たやつ。店長がやけにコスチューム持っててさ、セクハラの如く着せられちゃって」
「え、海夏さんこれ着たんですか」
「想像したら殴るよ」
「ハイ」
その時のことを思い出しながら言っているようで、持っている物を忌々しげに眺めて唇をすぼませている。
「着たら貰って良いですかって言ってみたら、貰えちゃってさ、依に着せようと思って」
「話を急に曲げないでください」
「私の気持ちはいつも真っ直ぐ。依に着させる希望があってこそ大人しく着たんだから、着て。夏道が帰ってくる前に」
赤と白の衣装はワンピースで思いきり肩を出すものだ。ボレロと帽子に、白のレッグウォーマーもある。
「絶対似合わないですから……、サイズも合わないでしょう」
「黒のベルト外せば多分大丈夫だよ。丈が短くなるくらいじゃない? 絶対似合うよ、夏道も喜ぶ」
「あいつに見せるんですか、尚更嫌です」
「きっとアンタのこともっと好きになるよ」
「……」
その言葉で一時忘れていたことを思い出された。
あいつも喜ぶなんて、前までは面白がって楽しむという意味で聞けたけど、今は別の解釈をしてしまう。もっとすきになるとか……。
熱くなる顔を俯かせていると覗き込まれた。
「アイツとなんかあったの?」
「………言えば着なくていいですか」
「じゃあ言わなくていいよ」
そもそもこの手のイベントはいつもケーキや料理を食べるだけだ。こんな形でコスプレイベントが来るなんて思いもしないだろう、文化祭でもあるまいに。
顔を覆って唸る俺に衣装を突き付けてくる笑顔の圧が凄い。
「うぅ……」
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