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依-50 夏道と自分

「──依どこ?」  野球クラブから帰ってきた夏道がバッグを床に落としながら聞いてきた。 「普通に自分家じゃないの」 「泊まりにくるって言ってたんだ」 「じゃあ後で来るんじゃない?」 「むかえ行ってくる」 「着替えてから行けよ」  話を聞かず泥だらけのユニフォームのまま出て行った。  依という子と友達になってずっとあの調子だ。  あまりに依依言うから、「物じゃないんだからね」と忠告した事もある。 「おれのもんだ」  真剣な顔で言った目の奥は鋭かった。  依の事になると目の色を変えた。野球にハマっても同じで、その雰囲気はあの人を思わせた。  相手の子が心配だった。  もし夏道を嫌がる態度を取ってしまったら、何かされてしまうんじゃないかと。夏道がその子を気に入れば気に入るほど心配になった。  直に会った時、この子も夏道を想ってくれていると分かった。  二人が並ぶ雰囲気に両思いなのかと察して、少しだけ安心した。 「──私も同じ部屋で寝てたでしょ? 夏道がアンタを抱いて寝たの見た時もヤバイなって思ったんだけど、赤い顔してたし、その後も嫌がる素振りなくされるがままだったから、大丈夫そうかなって思った」 「……」 「しかも夏道が寝付いたあと、ジッと見てたり顔触ったりしてたし」  ただ口を開ける俺を見て海夏さんは歯を見せた笑みを浮かべた。 「アンタ、マジで夏道しか見てなかったからね」 「……変に思わないんですか。男同士なのに……」 「別で気にしてたのが大きかったし、私は特に思わないよ。それに依は女みたいに可愛いし」 「……男です」  俺が声を暗くするのを聞くと、からかう素ぶりをやめて目を合わせてくる。 「俺はあいつの役に立てるなら何だってしてやりたいし、そのつもりです。……でも、出来ないこともあります。絶対に出来ないことが。だから……」  両思いと分かっても、素直に喜べない自分がいた。  そうなりたいと思っていたけど、誰にも譲りたくないと思っていたけど……。 「依がいてくれてよかった」  ふと、俯いていた頭をポンと撫でられた。 「アイツとちゃんと話しな」  微笑みを向けられて、両手で撫で回される。夏道のとは違って細くて柔らかいけど、暖かさと優しさが似ていた。  俺は恵まれている。  恵まれた環境に育って、理解ある優しい人達に囲まれている。すごく有難いことだ。  唯一受け入れてくれないのは、……自分自身だ。

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