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誠志郎-18 近く

 楽しみにしていた合宿は全く楽しむ余裕が無かった。  一日を終えて就寝する今までの記憶が、ずっと走ってたくらいしかない。  朝早くからのランニングは、日課もあるからそこまではまぁ良い。  後に続く坂道ダッシュ、ポジション毎に分かれて屋外、室内でのトレーニング、合間にまたランニング、ダッシュ数本は言われたタイムを切るまで続いた。  野球馬鹿のあの二人も流石にこたえた様子で、それはちょっと珍しくて、視界の端や流し目に見ていた。  俺なんかは言うまでもない。感覚だけで頭では何も考えられず言葉に出せないくらいキツかった。休憩のたび少しでも回復することに努めた。  昼食はトレーニングメニューと混同して食った気がしなかったけど、夕食は美味かった。お代わりもできてみんなもよく食べた。  長い一日を終えれば、あと何日だと考えてばかりだ。  疲労で動くのが億劫で天井を向いていたのを、顔だけ倒して隣を見た。  夏道は布団を抱いてよく眠っている。寒くないのか。  大部屋に布団を並べて、イビキや寝相の悪い奴の音が聞こえる中全員眠っている。  明日の朝も早いから俺も寝たほうがいいし、というか瞼が重くて一瞬で寝れるけど、ひと時の至福をもう少しだけ見ていたい。  コイツが居なければ俺はとっくに部活を辞めていただろうと、今まで何度も思った。  部活を続けているのはコイツの近くに一緒に居たい気持ちがあるからだ。高校最後まで本気でやると決めた意思もあるけど、コイツと一緒でなければ意味がない。  夏道が頑張っていて、どんなに疲れても目の奥の闘志は失わず立っている姿は格好良くて、間近で見れるのは至福だ。  これだけは恋人には出来まいと、内心張り合っている自分は馬鹿だけど。  瞼が限界で観念して眠ろうと頭を戻す時、ふと反対隣に目線を向けた。 「な……っ!?」  声が出そうになったのを辛うじて抑えながら飛び起きた。  隣ではなかったはずの大護が横になっていて、しかも目が開いていた。  完全にホラーじゃん。  目が合ってもまぁいつものお面で、「何?」という態度だ。布団を抱いて一つずり下がってから睨みを利かせる。 「なんで隣に居んだよ……」 「夕飯のデザートで代わってもらった」 「賄賂か」  そこまでして何で隣に、と言うのは寸止めた。  答えが容易に浮かぶだけで居た堪れない気分になる。  黙ってもジッと見つめてくるままで……、ていうかコイツいつから目開けてたんだ。それも聞きたくはないが。 「……明日も早いんだから寝るぞ」 「おやすみ」  気持ち夏道寄りで横になって布団を被る。 「おやすみ」  言いながら、この返事もしなくていい気がした。  じわじわむず痒くなって、覚めてしまった目を強引に閉じた。

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