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夏道-22 離したくないもの
雫が落ちるたび頬を拭っている。
ずっと泣きっぱなしだ。最近は暗い顔しか見れてない。
「……俺も男だ、お互い様だろ。それに、お前の言ういつかは来るかも分からない未来だし、ずっと続く関係も無い。家族でさえ離れる事だってある。けど……」
聞きながら悲しそうな顔で唇を結んでいる。
世間で言っている同性の恋愛事情とかは俺も知ってるし分かってはいる。でも、どうしてそこまで思い詰めるのか俺には理解できない。
「俺は、そういうの全部考えられないほどお前が好きなんだ」
屈んでしっかりと目を合わせた。
「依がいいんだ。お前じゃなきゃ、俺は幸せになれない」
顔を赤くして潤む瞳に、思わず奥歯を噛み締めて、繋いでいる手に力が入ってしまう。
「……だから、俺と付き合って」
理性を持って言い聞かせていた。両思いならここまで抑えなくていいんじゃないのかと、欲が愚痴るけど、無理やりはしたくない。嫌がることはしたくない。
言いきった後、自然に落ちていた視線に、空いている方の手が戸惑いながら上がるのを見た。寄ってくるのを黙って待っていると、俺のダウンジャケットの裾を小さく摘まんだ。
「……うん……」
やっとくれた返事に目が見開いて、心の内で息をついた。
なだめるように頭を撫でてやると表情が和らぐ。
「……怖がる必要ないから、俺の側にいろよ」
「……うん」
顔を覗き込んだらギュッと目を閉じられた。
……別に今する気はなかったんだけど。
硬く身構えて瞑られたままの顔を見つめる。
もっと近づいて、キスをした。
「……依、好きだ」
俺の声に反応してゆっくりと開けた目線が下へ行って伏せ目がちになるけど、裾を掴む手は離さなかった。
「……夏道……」
「ん?」
震える唇が可愛くて指で撫で押す。ふに、と柔らかい感触に口端が緩んで胸の中が熱くなる。必死に言おうとしているのかどんどん顔を赤くするから寄って耳を傾けた。
確かに聞こえた同じ言葉は、今までの中で一番嬉しかった。
しみじみ感じて思わず笑みが漏れて、可愛くてどうしようもない存在を腕に閉じ込めた。
「……何でここにいるって分かったの」
「家に電話しても居なかったしさ、下の所探しに来たとき地面に靴跡あったからもしかしてと思って」
「こわ……」
「探偵みたいって言えよ」
手を繋いで山道を下りている。恋人繋ぎしたら変に反応されて、そう言えば指の間も弱かったのを思って自分の理性のためにも普通に繋いだ。
キスも少ししかできなかった。塾に行かなきゃとかぬかすから。
泣き腫らした目元を前髪で隠す横顔を時々見ながら元の調子で会話をする。そんな顔でも行くのかよ。
山道の入り口に着くとするりと手を離された。
いつもと逆の立場に、なんとなくその光景を呼び止めた。
「……終わったら、うち来いよ」
数歩先のアイツは動揺する素振りをして間を置いて頷いた。
いつもこんな気持ちだったんだろうか。
三時間後くらいには会えるのに、小さくなった姿でもまだ目に捉えているのに。寂しい。
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