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依-54 見られた

「……別に、する事もないでしょ」 「ないけど」  夏道が俺の頬をむにっと摘まんで半分寝ているのを起こそうとしている時、携帯の着信音が鳴った。  充電器に挿してあった夏道の携帯だ。手を伸ばして取ろうとするので気を使って離れようとしたけどさり気なく押さえられた。夏道は画面に映る着信相手を見てから電話に出る。 「何。……、うん。写真? うん」  写真という言葉でハッと思い出した。内心焦り始める俺を他所に夏道は相手と話を続けている。まさか。  切るぞ、と言って通話を切ったすぐ画面の操作を始めた。まって。 「かっ貸してっ!」 「ちょっと待って」 「駄目っ!」 「どうした?」  手を伸ばすと上へ掲げられて届かず、あからさまに必死になる俺を怪訝そうに見た。  何も答えられずにいると再び画面に目を戻す。また取ろうとしたら変な手つきで腰を撫でられて咄嗟に身を屈めた。卑怯だ。  夏道は携帯を掲げたまま見て、ふとした拍子に目を見張った。  段々と目が据わっていく。 「は……?」  重低音のその声は久しぶりに聞いた。  睨むような目つきで俺と画面を見比べて、少しすると携帯を耳に当てた。  その隙を突いて身を翻す。四つん這いの状態から立とうとすると服を掴まれて、背中から倒れ込むように夏道の元へ戻った。 「誰撮ったの。……、いや、まぁそう思ったけど」  姉貴じゃなかったら殺してたわ、と電話越しの相手と話している平静な声が怖い。  楽々と拘束してくる腕を解こうにも手強くて、無言で抵抗し続ける体はずり落ちて姿勢を悪くする。観念すべきか、頭上の会話を黙って聞くことしかできない。 「服は? ……え、マジか。………分かった。程々にしてやれよ」  通話を切る音がレクイエムの様に聞こえた。  悪い姿勢で動かなくなった体を抱き上げられる。  顔を覗いてこないのが逆に怖い。 「よく着たな、お前」 「……海夏さんが怖くて」 「嫌なら言えばいいじゃん、って、姉貴は聞かないか」  さすが弟、分かっている。あの場に居たら夏道はこっちの味方になってくれたかもしれない。だから海夏さんはこいつが居ない間に仕掛けてきたのかな。好き放題されたし。 「……可愛い」  腕を前に回された状態で写真を見ながらポツリと言われる。削除を試みようともこの手は止められた。 「きもいだろ……」 「まぁ、ビックリはしたけど」 「……だよな、そうだよな。消そう」 「やだ」 「何故」  かわいいと言われて少しだけホッとした自分が恥ずかしい。やはり引かれた。似合わないのは事実だけど。 「もっかい着て?」  ……え。 「……あの服、あるの?」 「いや、この写真のは姉貴が持ってった。でももう一着あるらしくて、あ、あの紙袋だ。あの中に」  解放されたけど衝撃の事実に動けない。  夏道は紙袋から出した衣装を眺めて、ニヤける顔をこちらに向ける。 「着て?」  とんだ既視感だ。

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