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依-56 脱力は口も塞がない
好きにすればいいと、言いはした。実際思った事だ。夏道にされるなら何だっていいと。
でも……、これはまだ怖かった。
ただ力が出ない。
やっと自分の服を着て、敷かれた布団の上に怠い体を倒していた。昼間に何をしてしまったんだと自我がユラユラ漂っている。もう夕暮れ時だ。
「……ごめん」
うずくまる俺の前で呟いた。瞼が上がりきらない目を向けると丸まったティッシュをゴミ箱に入れていた。恥ずかしくて堪らず布団に顔を埋める。
夏道の手で……。だめだ。変な姿をいっぱい見られた。
「……苦しそうだったし溜まってたみたいだから、出してやった方がいいと思って」
「言うなよぉ……」
「ごめん」
徐ろに寄ってくる気配に腕から覗くと、同じく横になっていた。
「嫌だった……?」
違う。……怖かったんだ。
同じ男のものを見て、あられもない姿を見て引かれないか、気持ち悪いと思われないか怖かった。
「俺が、変になったから……、夏道に……」
「変って何が。男なんだから当たり前のことだろ。それに今言ったのは建前で、お前の気持ち良さそうな顔もっと見たくて手止まんなかっただけだし」
本心を言われても恥ずかしさが増すだけだ。熱いのはいつまでも腕をかぶっている所為か。癖になっているように首筋を撫でてくる指が、くっきりとついた歯型をなぞる。滲む痛みからも微かに快感を得てしまう。
空いていた脇を不意につつかれて腕を下ろしたら顔を見られた。さり気無く弱い所を利用してくる……。
「すげぇ可愛かった。あとエロかった」
言うな。
「好き」
……なんで。
「顔真っ赤」
体の中がじわりと熱くなる時に滲む涙は何なんだろう。
変じゃなかった?
引かなかった?
あんな姿見ても俺のこと、好きって、言ってくれた。
よかった。
「夏道……」
「ん?」
「好き……」
涙が溢れてくる。
「好き……、すき……、なつみ……」
想いが溢れて、ジンジンする。目の前にあるその手にすがった。
「俺、男だけど……、好きなんだ、夏道が好きなんだ……」
止められない口に夏道が触れた。
瞬きして見ると一層近くにいて、顎に添えられた手に引かれて唇が重なった。上半身を少し起こして今度は上から寄せてきて、その感触に頭が真っ白になる。互いの息が混じったあとに離れた。
目を合わせられずに口元を見つめると身動きが取れないほど強く抱き締められて、色んな意味で苦しくて息をはく。
「……嬉しい」
ポソリと言われた言葉に、出るがまま口にした事を思い返す。たくさん言ってしまった。
でも、それでも言い足りないのがこの想いだ。
……いや、やっぱり恥ずかしい。口に出し過ぎた。
夏道が腕を緩めたことに察して顔を寄せてしがみ付く。
「依」
俺は寝た。
「なぁ、顔見せて」
クスッと笑みを零して俺の耳を弄ってくる。
「赤い」
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