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誠志郎-19 嫌いな奴
風が吹いて散らかる前髪をよけながら何となく向くと、橋のたもとに大護が立っているのが見えた。目が合ったと思うと大股で歩いて側までやって来た。
「よう」
「明けましておめでとう」
「あぁ、明けましておめでとう。もしかして探してた?」
「うん」
「連絡無かったけど」
「……連絡してなかった」
そう言えば、という様子だ。そっちを先にするだろうに、なんでわざわざ探し回ってんだ。
思わず笑ってしまったが、嫌な予感がした。
「俺ん家に……、誰か来てた?」
「うん」
多分ソイツと話をしただろうに、視線を川に逸らして気まずそうにする俺にただの返事しかしない。
考え事はとりあえず流して、息をついてから足を動かした。
「初詣だろ? 行くか」
「うん」
去年も一昨年も初詣には大護から誘われたから今年も来るだろうと思っていた。だから家で待つつもりだったけど、番号を知らないはずの奴から連絡が来て思わず外に出てしまっていた。
走って探してくれたのか少し汗をかいている。その横顔をチラリと見て前を向く。
「一華ちゃん達とは現地集合?」
「うん」
「ごめん、待たせてるな。走っていいか?」
「うん」
返事を皮切りに速度を上げて並んで走り出した。
気を使ってるのか興味が無いのか、コイツはずっとそういう奴だ。
大護の隣は居心地がいい。こういう気持ちの時は、尚更。
「明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
鳥居前にいた一華ちゃんが目が合うとペコリとお辞儀をして、新年の挨拶を交わした。この二人の母親はお札関係を買いに行っているらしく、先に参拝する列に並んだ。
ふと頭に浮かんだ奴を探してみたけど見当たらなかった。別に待ち合わせしているわけではないが大体は鉢合わせるし、この列に並んでいる間に来るかな。
手を合わせて、昨年も無事に過ごせた感謝と、控えている試合の必勝祈願をした。隣にいる奴もきっと同じだろう。
「いた〜、誠志郎」
その声と姿に頭が真っ白になって一瞬動けなかった。
参拝を済ませてもアイツには会えず神社を後にすると、待ち構えていたかの様なソイツは軽く手を振りながら相変わらずの笑みを浮かべていた。
「ちょっとコイツ借りるね〜」と言いながら肩を組んできて、連れて行かれたのは良しとした。みんなの前で声を荒げずに済んだから。
「……何の用」
「うん、報告と挨拶。俺結婚したんだよ」
「は……?」
突拍子も無い発言に思わず目を合わせてしまった。コイツはニヤッと笑って携帯の画面を見せ付けてくる。
外人の男と顔を寄せた写真。仲良さそうに、その笑顔は稀に見たものだ。
国際結婚……?
「ルーカスってんだ。イケメンだろ〜、惚れるなよ?」
「……親に言ったの、それ」
「まぁ、流れで。ホントはお前だけに伝えに来たんだけど、家に居なかったからさ〜」
相手は同性婚を認めている国の人で、語学留学中に付き合い始めて同性結婚をした。自分もそっちへ移住するつもりでいて、今は三日ほどの滞在で日本に来ていると言う。俺に会わせる為に。
澄んだ空気を吸って伸びをして、晴れ晴れとした表情で言う姿に胸が苦しくなって怒りまで湧いてくる。
俺はコイツが……、嫌いだ。
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