132 / 161

誠志郎-22 可笑しい慰め

 俺の言うことへの相づちも喋りもせず黙って聞いていた。何を考えているかも分からないけど目を合わせれば真っ直ぐ見つめてくる気がした。  箱ティッシュが静かに寄せられてなんだか少し悔しくなる。 「……どうせなら慰めてくんねぇかな」  雑に取って鼻をかんで、ゴミ箱に投げ入れてから見やるとやっぱり目が合う。  大護はベッドの布団をめくって、徐ろに黒いものを持ち上げた。  待って、それクロさんじゃん。  ずっとそこに居たのか。  正しい抱き方で差し出される流れで受け取ってしまった。  いや、クロさんも大人しくてされるがままだし確かに慰められるけど、割とすごく癒されて落ち着く冬毛のモフモフさだけど。  ハッとして顔を上げるとなんとなく微笑っているように見えて内心恥ずかしくなる。 「お前が慰めてくれるんじゃないの」  苦し紛れに言ってみたがこれはこれでどうなんだ、俺。 「いいの?」  ……そこは聞き返してくれるなよ。何だよ、遠慮した上でこの子を出したのか。  膝に乗るクロさんへ視線を逃して、静かににじり寄られる気配に緊張する。  手が頭に置かれて、撫でられた。  その重みが涙腺を優しく刺激する。  可笑しくて笑えてきてしまうのに涙が出てくる。  思わず「それだけ?」と零すと両手で撫でられて、クロさんの毛を濡らさないように袖を目に押し当てた。  ガキかよ俺は。 「……お前さ、本当に俺のこと好きなの?」 「うん」  さっきまで重かった気持ちを軽くされてすっかり落ち着いてしまった。クロさんは今も側にいて黙って撫でさせてくれている。  思ったことをそのまま言うと即答されて、そろそろとジト目が泳いでしまう。 「その割には色々、控えめだよな」  うわ言ではめちゃくちゃ言ってくるクセに。  俺が本心を知っているのを知らないコイツは、少し考えるように視線を逸らして口を開いた。 「そのつもりはない」 「……どういうつもりだ」 「申し訳ないくらいこの状況を楽しんでる」  なんだよそれ。言われなきゃ全然分かんなかったわ。  視界の端にいてもこっちを見てるのが嫌というか、いやだ。  大護はアイツと似てる気がする。自分の意思をはっきりと口に出せる。  俺だけがありのままでいられない。  親の期待にも、素直でまっすぐな気持ちにも応えられない俺なんて、見てもつまらないだろ。 「こんな俺のどこが好きなんだよ」  投げやりに呟いた独り言に、微かに目を細くして微笑って「全部」と返された。それは答えなくていい。  恐る恐る携帯を見ると連絡が来ていた。ホテルの住所と滞在期間のみ書かれている。  多分、何だかんだ俺が来るのを分かっていて、待っている。  徐ろに隣を見た。  大護はクロさんを抱き上げてモフモフを堪能していて、俺の視線に気づくと目を合わせた。 「……大護」 「うん」 「……今日、泊まっていい?」  今日は無理だ、行く気になれない。明日行く。その勇気が欲しいので兎に角家に帰るのだけは避けたかった。  大護は少し間を開けたけどいつものように返事をした。 「一応言っとくけど何もするなよ」 「ははは」 「はははじゃねぇよ」  我ながら自意識過剰な発言だけど一応言っておくべきだろう。  コイツはマジで何もしなかったけど。  内心緊張した俺がバカみたいだ。

ともだちにシェアしよう!