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誠志郎-23 二人の姿

 俺に会う為だけに日本まで戻って来たわけではないだろうから観光でもしてると思って、「今から行く」と連絡を送ると、やはり「一時間くらい待ってて」ときた。今から出れば丁度いい。  大護の家から出る時は足を止めてしまった。玄関を出て振り向いて、少しだけその姿を見つめた。 「……ちょっと行ってくる」  自然に「行ってらっしゃい」と返されて、恥ずかしくなってさっさと前を向いた。  一旦自分家に帰ると案の定父さんから話が出た。アイツと会ったか、何か言われたか、いきなり帰ってきてどうのこうの、眉を寄せて不機嫌そうに話すのを軽く聞き流した。  場所は意外に遠くて、最寄りから三つ先の駅近くにあるホテルだった。  お洒落な雰囲気のロビーは慣れないからソワソワする。一人掛けの上品なソファーも何だか座りにくくて壁際で待っていると、入口から男二人が談笑しながら入ってくるのを見た。  俺に気づくと手を振り、隣の人に何か言って揃って近づいてきた。 「俺の弟、誠志郎な」  昨日の出来事が無かったように振る舞う姿に居心地を悪くしながら、紹介される相手を見上げた。  近くで見ると結構背が高い。夏道より身長ある。写真通り、地毛であろう髪は綺麗な栗色で顔立ちも整っていて、瞳は濃い茶色だ。落ち着いた口調と振る舞いに、流暢な日本語で自己紹介されて握手を交わした。何も知らなければ、イケメンの外国人だと見惚れただろう。 「ハハ、見惚れてんじゃねぇよ」 「は? いや……」  あからさまだったか、横の奴にからかい混じりに言われた。  立ち話も何だと、あのソファーへ促されて渋々二人の後をついていった。  拍子抜けするほど自然な空気だった。  俺の応答はしどろもどろでも、向かい側に並んで座る二人は仲の良い友人同士みたいにノリよく会話を振ってくる。ルーカス……さん、の家族の事だったり、暮らしや食の異文化ギャップとか。  ただ、ふとした時の相手への視線やボディータッチに二人の関係性が垣間見えて、こっちがドキドキしてしまう。会話の内容はほとんど耳を通り過ぎていった。  気さくで優しい人だ。  こう思うのも何だが、コイツの見る目は良い。  背景は背景として背に置いといて、素直に安心できた。  アイツが手洗いに席を立った。この人と二人きりにされるのは困るんだが……、と下を向いた時、変わらない調子で話しかけられた。 「本当は、君たちのお父さんとお母さんにも挨拶をしたいです。僕たちの関係を認めてほしい。そして、海を越えた遠い国にいても、僕たちは家族として繋がっていると、知っていてほしい」  改めて日本語が上手な人だ、最初にそう思って、人の良さをひしひしと感じた。 「これからは僕が晃志郎を守ります。安心してください」  普通ならキザで胡散臭く感じるのに、こんな人が言うと素直に受け入れられる。  本当にアイツを想っているのが分かって、すごく……、良かったと思う。  複雑な気持ちが滲み出ているのが分かった様で、心配そうに顔を覗き込まれたけど笑顔で誤魔化した。 「その笑い方、知ってる。やっぱり兄弟だね」  ルーカスさんは眉尻を下げて微笑した。  俺はどんな笑い方したんですか。  アイツと一緒なんて……、イヤなんだけど。

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