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誠志郎-24 次会う時も同じ顔をするだろう
ひと気のない駅のホームで帰りの電車を待っている。駅まで送ると言って一人で付いてきたコイツは寒そうに首をすくめた。
「良い奴だろ」
「……まぁ」
あの時席を立ったのは、ルーカスさんと二人で話をさせたかったと言う。そうだろうとは思ったけど。
まるで別次元にいる気分だった。二人の姿は俺にとってはまだ不思議な光景で現実味が無い。やっぱり羨ましいと思った。
家に帰ればこんな事、話せるはずがないのに。
「ごめんな、誠。一人にさせて」
不意に呟かれてその横顔を見た。遠くを見たまま、吐いた息は白くなって消えた。
「あの時はもう、バイトで貯めた金持って出て行く事しか考えらんなかった。大学行って留学して、ルーカスに出会えた頃に、やっと家の事を思い返すことが出来たんだ。俺と同じだったお前を一人残してきたのを自覚して、その日からお前を想わない日はなかった。本当に悪――」
「違うだろ」
尖る口調で遮った。
「なんでアンタが謝らなきゃいけないんだ。いいよもう、そういうの。俺は平気だから」
それ以上謝られても困る。
アンタだって辛かったくせに。
視線が沈むと頭を撫でられた。横目で見るとさっきと同じ様子で、クシャっとして撫でる力は優しくて、不器用さも感じる。
小さい頃もこんな風にされたことがあった気がする。
「お前は一人じゃない。覚えてろ。……俺ももう忘れないから」
その言葉に目頭が熱くなって口をひらけなかった。
どの口が言ってんだ、アンタは海外へ行くんだろうに、俺はあの家へ帰らなきゃいけないのに。その一言だけじゃ何も変わらないのに。
奥歯を噛み締めて嗚咽をこらえた。
その一言だけで気持ちが軽くなった。
奥底で淀んでいたものが、静かに流れていく気がした。
二人黙ったまま風に当たっていると、俺の乗る電車が来るのをアナウンスが知らせた。
「前みたいに兄ちゃんって呼んでほしいんだけど」
「言うかよ……」
「あ、言っとくけどルーカスもお前にとっちゃお兄ちゃんだからな? 向こうにも兄妹四人いるし、お前完全に末っ子だぞ」
……そういえば。あの人は義兄になるのか。
うわ……、一気に現実味を感じる。
「その内向こうの家にも来いよ。お前の話はよくしてるからめちゃくちゃ可愛がってもらえるぞ」
「パスポート持ってねぇし……」
無愛想に答えてばかりなのにコイツはすっかり笑顔だ。目をギュッとさせて歯を見せた笑い方はガキっぽい。
呆れていると止まった電車の扉が開いて、大股で移り乗った。
「じゃあな。精々幸せになってろ、クソ兄貴」
この締め言葉にドアも閉まって欲しかったんだが、少し間ができてしまった。
早く閉まれよ……、目の前の奴に笑われたじゃんか。
「誠のそういうところ、好きだよ」
腹が立って言い返そうとしたらドアが閉まった。俺は全く締まりが悪い。
こっちが睨んでも最後まで目を合わせて手を振っていた。
俺はアンタのこと嫌いだよ。
置いていかれた日は寂しくて怖くてたまらなかった。一人で自由になったアイツが羨ましくて憎いとさえ思った。
だから絶対幸せになってもらわなきゃ困る。
ぶつけ損ねた気持ちが落ち着かなくて、誰もいない車両の中で立ったまま揺られた。
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