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誠志郎-25 思うよりも
帰ろうとした足は家から大分手前の橋で止まった。
もう少しだけ外の空気を吸っていたい。夕暮れ時の寒さに指先や鼻が一層冷えるのを感じて、カイロを持って来れば良かったと今更思う。
「ワンッ」
遠くから犬の鳴き声がした。
見ると一目散にこっちへ走ってくる黒い犬がいた。そのリードを引き駆け足で来る黒い服の奴が誰かは、もはや言うまい。
構えた両手をすり抜けて突進してきたゴロウを包んだ。こればかりは自然に笑顔になる。
「散歩中だったのか」
ワシワシと撫でて首元を包むようにして可愛い顔を拝んだ。少し戯れて、そばに立つ大護を見上げた。
「おかえり」
不意打ちの言葉に目を丸くして固まってしまった。
いや、うん……。確かに俺が行ってくるとか言ったからだろうけど。
ほんの一瞬……、安心してしまった。
「おう……」
湧いた気持ちを濁すように無愛想に返事する。二人の間に入って尻尾を振りながら歩くゴロウを見てから前を向いた。
大護は当たり前のように側に来る。
俺が誰かに側に居て欲しいとか、密かに寂しく思う時にはよくコイツが居る。
──お前は一人じゃない。
アイツにそう言われた後、頭の端でずっと考えていた。
家では孤独を感じるけど愛されてないわけじゃない。部活仲間や好きな奴もいるし、こうして隣に居てくれる奴がいる。
俺は別に一人じゃなかったよ。
だから気にせず向こうで幸せになればいい。
「大護」
視線は動かさないままこっちを向いたのが分かると続けて口を開ける。
「お前がいて良かったよ」
心から思ったことを、特に抑揚も付けずぼんやりと言った。きちんと言うには小っ恥ずかしい台詞だから。
そのあとにチラリと横目で伺うと大護は反対側を向いていて、思わず足を止めた。
「おい」
声をかけてもこっちを見ない。せっかく言ったのに聞いてなかったのかと、肩を掴んで向かせるといつもの面だった。でも目が合うと逸らされて僅かに泳いだ。動揺、されている。
「俺変なこと言った?」
「……いや」
「俺のこと好き?」
さっきので口を閉ざしきりだったのに、家の近くまで来ると背後から投げかけられた。
「……さ、さっきのは別にそう言う意味じゃねぇぞ」
「嫌い?」
極端な二択にすんじゃねぇよ。
「……嫌いじゃない。けど、お前の望む好きでもない」
しかめ面で言ってみせた。俺にとって割と有り難い存在だったというのを自覚しただけであって、この気持ちはお前の望むものではない。
それなのにコイツは目を細くして微笑って、なんだか呆れてしまった。
「お前さ、それで良いのかよ……」
「うん」
側にいたゴロウを促して自分家の玄関へ足を向けた。腑に落ちないまま置いていかれてモヤモヤする。
玄関のドアを開けて、先にゴロウを入れるとこっちを見た。
「また明日」
「……ん」
バタン、とドアが閉まった後も見つめた。
「ん? 明日ってなんだ。……あぁ、日課か」
人知れず口に出して確認する。それはほぼ毎日やってるから、大護ともほぼ毎日会ってるという事になるんだ。
部活や学校、普段からも一緒に居て……。
「逆にすげぇな……」
よくよく考えると、アイツの露骨さを今になって実感した。
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