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大護-3 水面下
「これはどうかな」
「ダメだよマミー自分の好みを勧めちゃ。それガッツリ致してるやつじゃん、年齢制限でまだ読めない私が許しません。初心者にはこっちの純愛ものからがいい」
「うんうん」
家に入ると、母と妹がリビングで数冊の本を並べて談議していた。
「それで向こうさんの好きな部分と傾向を知った上でのお勧めで攻めていくんだよ。“気づけば其処は腐女子沼”、そして現実的な話題も少しずつ話し合って初めて、誰かを想う気持ちや想い合う者達の愛と尊さをきちんと考えてもらうんだよ」
「あの人はすでに隠れ腐女子化してるから時間の問題よきっと」
「まじか。じゃあ確実に攻めていこう」
足を拭き終えたゴロウはそっちへ走っていって、本を守るように制した一華に抱っこされた。元気旺盛な子をあしらいながら話を続けている。
一応ただいまと言うと、二人から同時に応答と目線がきた。
「そっちの方は順調?」
一華に言われて、何の話かは本の表紙を見て察した。
「……外堀は結構埋まった気がする」
「すごいじゃん」
母と妹は腐女子というやつだ。
単なるボーイズラブ好きだから、リアルに同性を好きでいる俺にもそういう要素を聞いたりネタにしていて、作家もどきの一華はネットに投稿とかもしているらしい。
自分の事を理解されているのはありがたいと思う。
でも妹の部屋を見た時はビビった。この気持ちがそこまで複雑なものとは思ってなかったから、俺みたいな奴にはまだ生きづらい世の中なんだと知るきっかけにはなった。
だから周りには明かしてないけど、誠志郎と夏道が自分と同じだったのを知った時は内心驚いて、俺より先に知っていた一華はネタの宝と喜んでいた。どうやら夏道の姉と知り合いらしい。
「お兄ちゃんって本当によく我慢できるね、早く捕まえちゃいなよ」
普通のトーンで恐ろしい事を言う妹。
「まだ粉になってないから」
「またそれか」
適当に交わして、黒い棚の上にいたクロさんを撫でてから自室に上がった。
──「誠志郎のことよろしくねー」
晃志郎さんから電話が来た時は少し固まった。アプリの連絡先で知り合い一覧から辿ってきたのかもしれない。
俺が誠を好きなのを見破って、それで俺に頼んできたみたいだった。
「……アイツは俺のこと好きじゃないんで」
「うんー、でも君、諦める気は微塵も無さそうだから。獲物が近くに来るまでジッとしてるハシビロコウみたいじゃん?」
すごい例えをされた。
でも少し的を射ている。
誠が粉砕……、というか玉砕されて完全に諦めるまで、俺は待ち続けている。
その心からアイツが居なくなった時、全部貰うつもりで居る。
誠の恋が絶対に叶わないのは本当に良かった。夏道のことも大好きだし、無理やり奪わずに済んだ。
「粉になったら貰います」
「え、火葬されたらってこと?」
「いや、そういう意味じゃないです」
この例えは分かりづらいと一華に言われたのを思い出す。
「粉になったらどうするの?」
「溶かして全部飲みます」
「……ホットチョコレートかな?」
「……焼き鳥の方が好きです」
「うん! とにかく誠をよろしくね!」
頼まれなくても、誠は俺が貰う。
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