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夏道-24 文字の形

 母さんがいないのを確認して冷蔵庫の扉を見に行った。  俺はふと思い付いて、そこに小さなホワイトボードを付けてメッセージを書いていた。「行ってらっしゃい」に対して、赤と水色のペンで書かれた返事があった。  赤は姉貴の走り書きで大きく「今日は彼氏んちに泊まる」とあり、水色は「行ってきます」と書いてある。ボードに入りきらないのを後半で焦ったのか「きます」は縦長で細い。書類とかでは見ていたけど、これも綺麗な字体だ。  母さんの字だ。  思わず指で触れそうになって、消さないようにふみ止まった。  態度はまだお互いぎこちないから、これならどうかと思い付いた。携帯でも考えたけど直筆の方が良いと思って。  これは確かに俺へ向けた字だ。  見ていると暖かいものが胸の奥まで染み込んでいくのを感じて、一人で微笑った。  我ながら良い案だけど、次を書くのに消さなきゃいけないのがもったいないな。  冬休みの課題を入れた鞄を持って家を出た。雲はゆっくり流れていて、冷たく澄んだ空気を吸って青空を見上げた。今日も寒い。  依の家のインターホンを押すとおばさんが出てきた。俺を見るなり表情を一層明るくして、挨拶もできず家の中へ引っ張られた。 「聞いたわよっ、依と付き合い始めたんですって?」  朗らかな顔で言われて、普通に「はい」と言いそうになった。  あれ、この関係って言っていいんだっけか。 「誰から聞いたんすか?」 「依から」  それには目を丸くした。アイツは、男同士だからとか複雑そうに言ってたからてっきり隠すつもりでいると思っていた。しかもこんなに早く話してるなんて意外だ。 「私もう嬉しくって、本人より喜んじゃってるの。あの子小さい頃に夏道のお嫁さんになるの〜って言ってたんだけどね、できないのをすぐに理解して泣いちゃった事があって。悲しかったけど、両思いになれて本当によかったわ〜」 「……え?」 「ずっと前から貴方が大好きなのよ? 夢だって、夏道君のためなんだもの」 「は、はぁ……」  嬉々として話し続けるおばさんにため息みたいな返事をしてしまう。  勝手に聞いて良い話なんだろうか。多分、ダメな気がする。  苦笑いしながら依の昔話を聞いていた。

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