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依-57 口軽い人

「お前、医大に行くのかよ」  一つの隠し事がついに知られた。これに関してはむしろ知られずにいたのがおかしかったから別に良い。  俺の部屋のクローゼットを勝手に開いて、隠していた参考書をペラペラめくるとこちらを睨んだ。平然と頷いてみせると、夏道はそれを元に戻して側に座り込んだ。 「却下」 「は……?」 「医療関係が大変なのはお前も分かるだろ。会う時間が確実に無くなるじゃんか」  また頷く。どんな進路にせよ、高校を出てしまえば互いに忙しくなって会いにくくなるだろうから、役に立てる道を選んだんだ。その理由だけで却下されてもどうしようもない。 「分かってるけど、却下される意味が分からない。俺の進路なんだけど」 「だってそれ俺の為なんだろ? 全然俺の為になってねぇよ」 「……え?」  何故来て早々クローゼットを開いて何かを探すそぶりをしたのか、何故そんな解釈になるのか考えてだんだん嫌な予感がしてきた。 「ていうか一番良い進路あるじゃん」 「何」 「俺の嫁」 「却下」 「なんでだよ」  ニヤニヤする姿に確信する。自分の顔が赤くなるのはどうやって抑えればいい。  徐ろに立ち上がって、視線に追われながらドアノブを掴んだ。 「……ちょっと待ってて」  笑みを含んだ返事を耳にしてドアを閉める。  喉元まで上がるものを堪えながら階段を降りて、台所にいた人の顔を見た。目が合うと満面の笑顔をされる。 「言ったのっ!?」 「あはは〜」 「何処まで言ったの!」  悪びれもせずお菓子作りの手を止めない様子に腹が立ってくる。  あんなに口止めしたのに……! 「全部……」 「ぜんぶ……」  思わず復唱してしまった。 「ごめんなさい、嬉しくて」  俺が夏道と本当の意味で付き合い始めた事は、今までを思って母さんには話した。  でもそれが間違いだった。いくら口が軽いとはいえ軽すぎだ。緩む口元を隠している姿に呆れる。  あいつもあいつだ。嫁なんて言葉をさらっと言わないでほしい。 「どこ行くのー? 夏道君は?」  静かに玄関へ向かうのを呼び止められた。  一番知られたくない事を知られたのにあいつの居る部屋に戻れと言うのか。  大人しく待っていた奴は変わっていない顔で見てくる。その口を開くのを制した。  頑張って冷静に思えば、あんな夢は小さい子供ならありがちだろう。過度に恥ずかしがったら逆効果だ。 「……母さんの言った事は気にしないで。勉強しに来たんでしょ」 「そんなに俺のこと好きだったのか」  テーブルに頭を落とした。鈍い音が響いてもそのまま黙秘を続けると、頭を撫でられた。  今朝も父さんにそうされたのを思い出す。何も言わずただ撫でられて不思議に思ってたけど、母さんから聞いたんだろうな。  そもそもどうして俺の周りは肯定的なんだろう。  自分のことをきちんと話せるのは気が楽だけど、そんな風に喜ばれると変な気分になる。 「親公認だな」 「黙って勉強して……」 「俺のプリント、頭の下敷き」

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