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夏道-25 満たすもの
足りないんだ。一度満たされたのが空になった感じがして。
互いに好きなのを知ると容赦無く、気持ちに抑えが効かなくなっている。
もっと依が欲しい。
心も体も、今もこの先の時間も全部。
思い通りにならない未来を想像したら、心の中が黒く淀んで何も無くなった。依を抱き締めて埋めようとしても足りなくて、寂しくなる。
「ぁ……うぅ……」
痛そうな声に顎の力を抜いた。ゆっくり頭を上げると唾が糸になって首筋と繋いできれた。
薄くなっていた所に上書きした歯形を見下ろした。床を背にした依が熟した顔を逸らすと痛々しいそれがよく見える。
今にも零れそうな涙を目に溜めているのを撫でて宥めながらまた顔を近づけて、痛みが和らぐように跡を舐めた。
反射的に服を掴んで、舌の動きに体をビクつかせてくっ付いてくる。掠れた声とその感覚で少しずつ満たされていく。
裾から手を差し込んで火照る肌に這わせる。はくはくとする口を空いている手で覆ってやると耐えられない声を漏らす。
「依」
静かに呼ぶと涙が溢れた。揺れる視線が来て、目が合うとすぐ伏せた。
こんな事しても依は嫌がらない。
されるがまま、感覚に溺れないようにしがみ付いてくる。
それじゃ足りない。
「依。嫌じゃないなら、欲しがって。俺を」
涙の跡に新しい雫が流れる。その口に当てた手を離すと、綺麗な形の指がそろそろと上がって襟元を摘んできた。
物足りなさに腰を掴む手が力む。
「言えよ。何も変じゃないから、恥ずかしがらなくていい」
眉尻を下げて頑固なほど口を割らない代わりに、両腕を俺の首に回すと自分に寄せた。体重が掛からないように肘を立てても引かれる。
「……ぎゅって、して……」
デジャブを感じて一瞬だけ我に返った。首元に埋まる顔は隠れる様にジッとしていて、言われた通りにすると微かな吐息を漏らした。少しずつ腕に力を込めて顔をこすってくる。
「もしかして、こうするの好きなのか」
控えめに頷かれた。
いつもしてるよな、これ。
これがいいのか。俺はまだ足りないんだけど。
ふと離して顔を覗いた。
油断して隙ばかりでとろけてて、少し前に見たやつだ。
「可愛い」
薄口を親指でひと撫でして、目線が上がってくる前にキスした。片腕で腰を寄せると絞ったみたいに涙が滲み出て、緩んだ腕は首に絡んだまま、俺の後ろ髪を柔く掴む。唇を離すと頬をかすめてぎゅっとくっ付いてくる。
依からされる方が心が満たされる。
だからもっと。
「もっと欲しがって」
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