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誠志郎-26 世にも奇妙な

 晃志郎が来た日を境に、父さんは火種が無くてもボヤくようになった。俺へのいつもの念押しも強くなって、正直ちくわ耳が慣れた。  近年では世間の見方も変わってきているのにこの人はずっとこんな感じなんだろうなと、我が父親でも適当な距離を置けるようになってきた。  母さんの朝食は美味しいけど響くお喋りは不味い。 「……あなた、もうやめてくれない?」  お喋りを止めたのは俺の向かい側に座っていた母さんだった。静かに刺すような声音に、騒がしいテレビの電源をブツンと切ったみたいに黙って母さんを見た。 「その口を早くご飯に向けて下さい。冷めちゃうじゃないの」 「……あ、あぁ。すまん」  愛想なく言われてしまって吃りながら箸を取った。  正直俺もビビった。俺らが目を丸くするなか平然とご飯を食べている。  どんな時も穏やかな人なのに、こうも冷たい空気を出せるのか。 「……晃志郎のことは、もう大人なんだし好きにさせてあげたらいいじゃない。自立して結婚もできる経済力があるなら、私達が言う事は何もないわ」 「いや、だが男同士だぞ……? 周りの目が……」 「愛し合っているのならそんなのどうだっていいでしょう。私達だって両家の反対を押し切って結婚したでしょう? あの子はお相手のご家族と仲良くしてるみたいだから心配することもないわよ」  初耳の事実と風向きがいつもと違う会話を聞いていて、俺も箸が止まる。 「向こうのこと、母さん知ってるの?」 「えっ?」  急に挙動不審になった母さんは目を泳がせた。聞けばあの時、アイツから連絡先を貰っていて電話越しに少しだけ話をしたらしい。  いつからか分からないけど、落ち着いて現実を受け止め始めてるみたいだ。あまりに意外で、父さんと同じく大人しい微笑を見つめた。  味方だった人に置いていかれた男は困惑を隠せずにいる。実は妻には弱かったのかな。  食器をまとめて立ち上がると優しい眼差しを俺に向けた。 「あなたも、お付き合いをするならちゃんと好きな人とするのよ? 性別なんて関係ないわ」  そう言うとまた一つ微笑んで台所へ行く。  俺は徐ろに下を向いて必死に表情を固めた。気を緩めたら涙が出そうになるのが分かって、一緒に飲み込むように唾を飲んだ。  誰とも付き合わないと決めていたのに。一生の決心が揺らいでしまう。  その変わりようは複雑すぎて受け入れ難いけど。  ずっと心に置かれた重しを取られた気がした。  まだ困惑中の父は放って席を立った時、インターホンが鳴って俺が出た。  大きめの封筒が届いたのを誰宛か見ると母さんだ。ふと、文章のような品名に目がいって硬直した。  アダルトなタイトルだ。しかもボーイズラブ系。品名だけで察する内容には思考を遮断する。 「え」  思わず低い声が出た。  足音が聞こえると母さんが顔を出して、俺の持つ物を見て慌てて取り上げた。 「み、……見た?」 「……それ、母さん宛の」 「あ、うん……。ありがとう……」  じゃあ、と変な笑顔をして封筒を抱きしめながら後ずさっていった。  マジか。

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