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夏道-26 深く
「お前だって……いつも触ってるじゃん……」
不貞腐れたように言っている。
ニヤニヤが止まらない。服の下に手を差し込んで、温かい肌を撫でるとすくみ上がった。
「うん。お前も触っていいよ」
気持ちを落ち着かせても眠れなかった。
ただ目を瞑って自分のものを腕に閉じ込めていた。
依の行動には内心かなり驚いた。時折笑みをこぼすのを聞いて、よく微笑っていた小さい頃の姿を思い出した。そういえば最近笑った顔を見ていない。
俺が起きてるのに気付かず何度も抱き締めてきて、正直襲いたかったけど、俺が動いたら恥ずかしがってやめるだろうからとりあえず耐えていた。
肘をついて上体を起こして、布団は被ったまま見下ろす。
部屋は暗い。布団の中も同じだけど、慣れた視界に依が映っている。頬を触ると熱くて赤く染まっているのが想像できる。依の手の平を自分の頬に当てた。
「嬉しいよ。依からされるの」
顔を近づけて、寸前で止めた。ぎゅっと瞑った瞼が沈黙に開いて瞳が揺らぐ。
唇を微かに触れ合わせた。上唇を優しく挟んで離す。脆いものを割らないような僅かな動きで輪郭をなぞる。上唇と下唇で、はさんではなしてを繰り返す。
依の頭を間に両肘を立てて他には触れず、其処だけで依に触れている。目を瞑って感覚に浸っていると、なんだかすごく落ち着いた。離すと唇がジンと痺れて、またしたくなる。
「これ、気持ちいかも……」
ボソ、と呟くと、依は目を開けて何かに迷った。また閉じると両手を顎に添えてきて、徐ろに唇を当てた。
かなり控えめに触れてくる。
愛しいというのは性に合わないけど、それ以外の言い回しが思い付かない。
同じように返してくるのがすごく愛おしい。
しっとりした唇に自分のが挟まれてその心地に目を瞑る。
薄口が開いて震えるのを見て、息を混ぜ合わせるように深く重ねた。零れていく依の涙は枯れそうもない。
「……好きだ」
すぐそばの口が吐息をついて唇をかすめる。聞こえてないのか、もう一度と触れてくる。手は背中に回って拘束された。
俺に集中しきっているコイツが愛おしくて可愛くて、堪らない。自然に口元が緩んで、昂ぶる気持ちは暴走せず柔らかいキスをした。
「依……、俺無しじゃ生きられなくなって」
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