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誠志郎-27 温もりの余韻に腹がたつ

「発端はマミーです。基本隠れ腐女子だから黙ってるけど、誠君ママとおひゃべうふてた、ときに同性愛の話になって、だいぶ否定的で特にボーイズラブを酷評されたことにごりっふくにならへふね」  次々にマシュマロを口に運んでそれでも喋っているのを、俺は呆然と聞いていた。  一華ちゃんはごくんと全て飲み込むとこっちを見る。 「腐女子沼に引きづり込んで……じゃなくて、愛の種類を知ってもらい差別を解いてもらおうと、私も手伝って説得し続けてました。いわゆる腐女子会をここで何度かしてます」 「……お陰様で母さんは腐女子化したみたいだよ」 「誠君が見たのは私達も知ってる同人誌だと思います。悔しいです……、私まだ読めないのに」  テーブルに突っ伏して溜めていた息を吐いた。  長々と聞いたネタばらしの中に引っかかったものを思い出して、隣の奴を見る。 「……ここでふ、女子会してるって事は、お前知ってたのか? 母さんのこと……」  食べ終わった菓子袋を畳む大護は目を合わせて頷いた。 「なんで言わなかったんだよ……」 「口止めされてたから」 「何でだよ! 俺がっ……」  そんな事になってる間も、俺が家で窮屈な思いをしてたのも、お前は知ってたのに。  おかしな事実でも教えてくれれば、いつか俺のことも理解してくれるかもと思えて、少しは気が楽になったはずなのに。 「……まだ説得途中だったらしいから、希望的観測を言うのもダメかと思ってた。ごめん」 「……違う……」  コイツを怒るのは間違ってる。ただ……、まだ頭の中が混乱してて、当たってしまった。  ギスギスする空気の中、一華ちゃんが控えめに手を挙げた。 「誠君についてですが、実は私も知ってました。ごめんなさい。私も黙っていたので、お兄ちゃんだけを責めないでください」 「知ってるって……」 「全部です。私達がやった事は私情ではあるにしろ、結果家族のわだかまりが解け始めているのなら、何よりです。心置きなくボーイズラブしてください」  親指を立てて、静かにリビングを出て行った。  開いた口を無理やり閉じて、またテーブルに突っ伏して頭を抱える。  親同士が仲良いのは知ってた。試合の応援にも一緒になって来てるのを見ていたし、でもそれくらいだった。  母さんがここに遊びに来るのは知ってても見たことがなかった。  今思えば、母さんの行動は徹底してたのかもしれない。宅配だっていつも積極的に出てて、今日は珍しく俺の方がすぐ出れる状況だったんだ。  五色家の行いも然り。  ため息しか出ない。  あの母さんが、そんな風に変わってたなんて。 「五色家、怖ぇえー………」  代わりに言葉を吐いて、黙ってる奴をチロリと睨み見る。  やっぱり俺を見てて、目を細くして僅かに口端を上げると無骨な手を頭に乗せてくる。指先で撫でられた。  自分の顔を隠してその手を払う。 「……さわんな」  自分の心が勝手に揺れるのを振り払うようにした。  俺が一人になってからあまり時期を置かずに出会って、それからずっと一緒に居る。  これに縁を感じないことはないが、本当に……、何なんだコイツは。

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