145 / 161

誠志郎-28 この縁は腐れた赤色か

 一学年の最後の時期が来た。  まだ寒いからマフラーも巻いて通学路に立っている。程なくしてアイツも家から出てきたのが見えて、来るのを待った。  日課でも登校でも待ち合わせているが、これも大分流されてる気がする。ただの友達なら変に考える必要は無いんだけど、相手が相手だからな……。  数年の下積みを経て洗脳された感じがするのは俺の気のせいか。  側まで来た大護は一度止まって、俺が歩き始めると隣に並ぶ。  こんな一連の流れなんか気にも止めたことがなかった。  確実に自分の気持ちに変化が起きていて、芽生えた感情もある。  色んな気持ちが渦を巻く心の内を、他人事のように傍観していた。一度に受け止めるには多すぎて。  正直、大護を好きになってしまっている。  でも俺はまだ何も言ってないんだ。卒業後アイツに告白すると決めた事の前に、乗り換えるのは駄目だろう。好きな奴と言えばアイツも浮かぶのは確かなんだ。  こんな半端な気持ちで、お前に言えることなんか無い。  お前は……、いつまで待っててくれるかな。  いつの間にか足を止めて大護を見ていた。我に返ると、真反対に穏やかな瞳を向けられていた。 「どうしたの」  ボソッと言われた。 「……お前さ、何でそんな風でいられんの。何でそんな余裕なの。俺がお前を好きになる確信でもあんの……?」  何も答えられないのに口がモゴモゴしてしまって、寸前で別角度から話を切り出した。  大護は相変わらず、真っ直ぐ見つめてくる。 「うん」 「……こわ……」  断言されて、本当に怖いと思った。  ムズムズして落ち着かなくて先を歩く。  どんだけ……。 「俺はずっと誠が好きだよ」  不意に背中に掛けられて動けなくなった。  振り向く勇気はない。そんな想いに会わせる顔も返事も、持ち合わせてないんだよ。  足音に気付いて咄嗟にマフラーに顔を埋めた。 「赤い」 「寒いんだよ……」 「手繋ぐ?」 「アホか」  顔が赤いのは寒いからだ。  隠すのに必死になってると、微笑い声が聞こえた。  確かに隣から聞こえてすぐ見たけど、いつもの面だった。 「……お前今笑ったろ」 「あはは」 「それじゃなくて」  コイツ、普段でも笑えんのか……?  レアものを見逃した気分の自分に呆れる。頭を掻いて、止まった足を動かしてズカズカ先を行った。 「学校行くぞ」 「うん」  何度止まっていつ歩き出しても、どんな速度でも合わせてくる。学校に着くまでもう見なかった。多分コイツも見てはこなかった。  ただずっと、隣にいた。

ともだちにシェアしよう!