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二十歳 依-61 同級生

 成人式を迎えた月、まだ寒さが続く冬。雪は降るか降らないかという土地では冷たい空気と湿気を感じるばかりだ。  ポケットの中に入れたカイロで暖を取りながら、降りた駅から十五分ほど歩いてる。現地集合との事で、教えてもらった住所を携帯で再確認した。  着いた場所を見上げる。およそ十階建ての綺麗なマンションだ。  オートロック機能を前に不慣れな手つきで呼び出してみると、やけに明るい声が聞こえた。 「……(わたる)?」 「うん! ねぇこれ、ココ押せばいいの?」 「そうだよ」  もう一人の声と共に楽しげな応対でドアが開かれて中へ入った。  航は先に来ていたらしい。俺も夏道( なつみ)と一緒に来ようとしたけど、三戸( みと)さんに一人で来てと言われた。  玄関で先に出迎えたのも部屋の主人ではない航だ。広い部屋にはしゃいでいたらしく、三戸さんは呆れて笑っている。 「久しぶり、(より)君は相変わらず可愛い顔してんね」 「三戸……さんは元気そう」 「さん付けやめろって」 「くん……」 「さぁ上がった上がった。天四(あまつし)もさっさと奥行け〜」  廊下の突き当たりのドアを開けると五色( ごしき)さんがコタツテーブルにいた。目が合うと小さく手を上げられて、挨拶を交わした。 「俺も“くん”でいい」 「あ、うん……」  高校卒業式以来、この顔ぶれが揃うのは珍しいんだ。それぞれ顔立ちが少し垢抜けて、体格もより大きくしっかりしていたり。航はともかく、この二人とはどんな距離感だったか忘れてしまった。 「一時(いっとき)が君呼びするの可愛いから」  ……え。  特に表情無く淡々とした口調で言われて、自分の耳を疑った。目を丸くして見つめると、隣に来た人が笑った。 「ごめん、先に少し飲んでたんだ。そんでコイツ酔ってんの。天四はまだだけどコレな」 「どういう意味かなッ」 「なるほど……」  語尾に疑問符を付けたいのは堪えた。  五色君は正面奥にいるので、左に三戸君、右に航がコタツ布団に足を潜らせた。必然的に残った手前側に腰を下ろす。 「さ、改めて乾杯しますかー」 「えっ、夏道を待たないの……?」  今晩集まったのは、二十歳になった記念の飲み会だ。  一人で来いと言われた事も合わせて、夏道が省かれている違和感に耐えかねてついに聞いてしまう。三戸君はニヤリとして目を細くした。 「どんな酔い方するか分かんないだろ? 先に飲んで確かめ合おうって魂胆よ。依君だって変に酔ってアイツに引かれたくないだろ?」  ……なるほど。確かに、自分が悪酔いしてしまうタイプだったら嫌だな。  嫌なイメージが浮かんで黙って頷くとクツクツ笑われた。  缶ビールは小気味良い音を立てて開き、三戸君の音頭で乾杯した。

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