148 / 161
二十歳 依-62 酒に流れる
「今度春季キャンプ行くって聞いた?」
「うん、一ヶ月くらいだっけ……」
「オフシーズンでも全然オフじゃねぇよなぁ、ご苦労サマだこと。依君寂しいでしょ」
「いや、俺も勉強で目まぐるしいし……、あんまり」
五色君と夏道は、見事夢だったプロ野球選手になった。同じ球団に入って、夏道は敵として戦えないのかと少し悔しげに言ってたけど一緒に頑張っているらしい。
寮生活を終えて戻ってきても、忙しさは増す一方だ。部活合宿のような練習を秋と春にやっているから、今回もまた暫く会えない。
「でも、明日から一泊二日の旅行に連れて行ってくれるみたい」
「へぇ〜、どこ行くの?」
「京都」
付近に置かれた買い物袋の中には色んな種類のおつまみがあり、航が率先して取り出すとテーブルに広げた。
「オレ、ビール好きかも〜。おつまみと一緒に飲むとすごく美味しい〜」
「俺は普通かな。他も飲んでみようぜ」
一応飲み切れたけど、俺は苦手かな。
次々に置かれていく酒缶の中に、グレープフルーツ味のチューハイを見つけて手に取った。お酒特有の味がグレープフルーツの苦味に合わさって和らぐ気がした。美味しい。
「俺はこれが好きかも」
「おー、飲め飲め」
さきイカを食べながら、主に左右のボケとツッコミのような会話を聞いていた。
五色君はピスタチオを殻から取り出して分けていて、一つを三戸君の口元へ持っていった。自然に口を開けて食べた一連を思わずじっと見てしまう。そういえば、この二人の雰囲気や距離感を前から不思議に思っていた。
五色君と目が合って、俺の口元にまで持ってこられた。いや、俺は……。
「雛鳥」
「誰が雛鳥だ」
三戸君が代わりにツッコミを入れた。戻ろうとしない手からおずおずと手で受け取って食べた。
「ていうかテーブルに身を乗り出すな、壊れるだろ。俺がやる」
やらなくていいんだけど。
「オレにもちょうだいっ」
嬉々として口を開けた奴に五色君は何のためらいもなくあげた。
航はいつも通りな気がするけど、なるほど。そんなに飲んでない筈だけど、酔ってるんだ。
「まぁ、こういうのは普段でもやる奴らだけどな」
俺が思っていた事への返事のように三戸君はそう言って笑った。
「ねぇねぇ、恋バナしようよ〜。最近デートとかした〜?」
「え……」
こいつと二人の時にその手の話はするものの、言いづらい事に変わりない。他二人の顔を伺ってみると、どちらも俺を見ていた。
え、俺?
「オレはねぇ、水族館行ったの〜。薄暗いし目立たなくて楽しめたよ〜」
「お前から言うんかい。で? デートしてるの?」
スルメを咥えて両手を後ろにつき、いよいよ俺が話す雰囲気を作られた。そう言われても、思い付くものは少ないし、何より恥ずかしいんだが。
「まぁ、二人して忙しいんなら難しいよな。お家デートとかは?」
「あ……、うん、家で会うのが多い、かも……」
じわじわと赤くなる顔を覗かれる。
「じゃあセックスは?」
「はっ!?」
「アハハッ。顔真っ赤」
「オレいっぱいしてる〜」
「ハイハイ」
積極的に話せる二人がすごい。というかこれも恋バナの類に入ってしまうのか。
かわいい、なんて言われて、居た堪れず酒を一気飲みした。
ともだちにシェアしよう!

