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二十歳 誠志郎-29 鬼の居ぬ間に
良い飲みっぷりだったが、それで一気にきた様だ。ぐらりと項垂れたのを皮切りに伏せ目がちに黙ってしまった。肩を掴んで覗き込むと、うんうん唸って顔を赤くしている。
「ねぇ、相手の好きな所言い合おうよ〜。オレね、あの綺麗な澄まし顔すごくえっちで好きなの〜。低くて少し掠れた声も、綺麗な長い髪もサラサラで触り心地良くて好き〜」
「さてはお前がノロケたいだけだな」
「だってこういう話、他じゃできないんだもん〜」
テーブルに項垂れていくのを横目に、依君の具合を見直した。頬を優しくぺんぺん触ると顔を上げた。ぼうっとして瞳が揺らいでいる。
「大丈夫か?」
「……うん」
ふにゃっとした微笑を零した光景に一瞬固まった。思わず頭を撫でてみるとそのまま静かに俯く。
あらら。
「あとね〜、いっくんも大好き〜」
聞いていなかったノロケの続きに依君へ抱き付いた。勢いでこっちによろけたのを支えてやる。
「ちゅーしていい〜?」
「……いいよ」
待て待て、と止めそうになったのをやめた。「いいよ」って言ったか君。ホントに頬にチューされちゃったよ。
「アイツ居なくて良かったな……」
目の前でイチャイチャし始めた二人に呆れながら、肘をついて酒を飲んだ。
ふと隣を見ると目が合う。言わんとする事を察して「しねぇよ」と先に断った。
これが彼の酔い方なのか、されるがまま受け入れてしまっているのを見ていると俺も悪戯心が湧いてくる。
タイプではないが、こういう奴は性別問わず可愛がられると思う。変な奴に目を付けられそうだから、後日注意はしとくか。
「なぁ、夏道のこと好きか?」
「……うん」
「そうかそうか、可愛いねぇ」
夏道の名前を聞くと花が咲くように笑って、可愛いぞ。頭をよぎる思いは流し目で見送って、微笑いながらその頭を撫でた。
「アイツのどこが好き?」
「……手……、かな……。みてくる目も……すき……」
これには考えるように首を捻った。目線を下に漂わせながら薄口を開けると一つ一つ並べ立てて、声音は甘ったるい。どうやら思い浮かべながら言っている。
「でも……やっぱり、ぜんぶすき」
「分かるぅ〜〜」
横から入ってきた天四がまた彼に抱き付いた。
「そういえば、今も歯形付けられてんの?」
「……うん」
「見ていい?」
「いいよ」
いつからか、私服では毎度タートルやハイネックの服を着ているのを見ていて、夏道にそれとなく聞いてみたことがあった。
ニットのハイネックに指を差し込んでずらして見ると、首元に薄く歯形と分かるものがある。異様な独占と執着心を感じる。ついでに結構な色白肌。
「痛くねぇの?」
「いたい、けど……、べつに……」
そこに手を当てて微かに微笑む様子に、思わず苦笑する。気持ちは分からんでもないが危ない気もする。
「程々にしとけよ。体傷つけてる事に変わりないんだから」
「お母さんみたい〜」
「誰がお母さんだ」
「俺はキスマーク付けてみたい」
「お前は黙ってろ」
今度は左隣のノロケが始まって耳がこそばゆくなる。
「まえから思ってたけど、大 ちゃんの好きな子ってだぁれ〜?」
「ナイショ」
その話は他所でやってくれ。
みんなして確実に酔い始めている。俺はまだ正気あるけど、そろそろアイツ来ないかな。
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