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二十歳 夏道-28 飲み会 続

 横から顔を覗き込むと、漂う視線が向いてくる。目を瞑るほどにとろけた微笑をされた。  さっきからの純真無垢な笑い方は小さい頃のそれだ。湧いてくる感情を抑えて溜息をつく。 「ねぇオレは〜? すき〜?」 「うん」 「ちゅーしていい〜?」 「いいよ」 「待て」  唇を尖らせて近づけてくるのを手を出して制した。 「何しようとしてんだ。依、テメェも許してんじゃねェよ」 「ほっぺにするだけだよ〜う」  反対隣で他人事を笑う奴にも睨んだ。止めた顔を鷲掴みすると大袈裟に痛がって離れた。依と似たように静かな大護を見ると、傍観者の面でつまみを咀嚼している。 「お前、止めろよ」 「……戯れてるの楽しそうで可愛かったから、見てた」 「無駄だよ、ソイツも酔ってるから」  そうは見えないが、とりあえず依の口元を隠した。これ、俺は飲まない方がいいな。 「依、もう飲むな。つまみでも食ってろ」  酒缶を取り上げると素直に頷いた。側にあったビニール袋の中にペットボトルのお茶が見えて、誠に聞いてから依に渡す。 「いやぁ〜、缶半分で酔うとは思わなかったな〜。オレ弱いんだねぇ〜」 「大護もだな。自重してもう手付けてないけど、少しの量で酔いやがった。俺はまだ飲めるな」  誠はスルメをかじりながら気持ちよさそうに笑って、空の缶を袋に入れた。 「どいつも面倒な酔い方だな」 「アハハ、これから他人と飲む機会あるだろうしさ、いい勉強になるだろ。お前も飲めばいいのに」 「いい。コイツはどんくらい飲んだ?」 「缶二本かな? それ三缶目」 「多い感じするな。基準分かんねぇけど」  誠が徐ろに台所に立った。  料理を作り置きしていたらしく、全員揃ったからと冷蔵庫から出していく。煮卵、焼きそば、ニラやニンニクの揚げ物系、色々あって、腹の虫が鳴る気分で見た。  俺も行って言われた場所から取り皿を出す。棚の奥に異様な数の焼き鳥の缶詰が見えて一つ手に取る。 「焼き鳥の缶詰なんてあるんだな。大護か」 「正解。買い物で見かける度カゴに入れやがってさ、制限はしてるんだけど十個は常備されてるわ」 「ハハ」  それにネギと椎茸の炒め物を合わせて皿に盛った。分けるのは面倒だからと、そのまま取り皿と一緒にテーブルに持っていく。性懲りもなく依に抱きついていた奴を剥がした。  それぞれの近況を聞いたり話した。変わらない雰囲気は懐かしくて楽しい。 「そういえば依君、お前の手が好きって言ってたな」 「え?」  ずっと大人しい後頭部を見た。腹に回した俺の腕に手を掛けてジッとしているのを、また覗き込むとぼうっとしていた。無防備過ぎて逆に腹が立ってくる。顎に手をやって指先で撫でると、自分の手を添えて擦り寄ってくる。  コイツもう二度と飲ませねぇ。

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