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二十歳 夏道-29 お開き
料理もみんなの腹に収まった頃、酒を飲まずにいて良かったと思った。まだ酔っている依を連れて帰らなければ。
「コイツはどうやって帰んだ?」
台所に振り向きながらぶっ倒れている奴を親指で指したのを、誠は皿洗いする手を止めず見やって「あぁ」と笑う。
「迎えが来るよ」
「まさか」
「そのまさか」
噂をするとインターホンが鳴った。俺が行って玄関のドアを開けるとその人は目線を上げた。
「お久しぶりです、先生」
「あぁ。また身長伸びたか?」
「あはは、そうっすね」
高校で現代文の担当だった六堂 先生だ。今も同じ所に勤めてるらしい。
クラスのムードメーカーだった天四が先生と恋仲なんて知った時は驚いた。
それも二年の時に町で鉢合わせして知ったから、二人の関係が他の人にもバレないかと依は心配していた。親戚同士という事も合わせて、その恋愛事情は月並みに大変だなと思う。
先生は靴でひしめく足元を見て、天四を呼んで欲しいと頼んだ。
あれを持ってくるのは面倒だなと、息をついて足に踏ん張りを利かせる。軽く叩き起こして迎えが来たのを伝えた。
「せんせいきたの〜? いっしょに飲むの〜?」
「帰れ」
少しも力を入れず垂れる腕を自分の肩に掛けて、引き取り手へ渡しに行くともたれ掛かるように抱き付いた。
先生は平然として礼を言い、半ば引きずりながら連れて行こうとする。手を貸そうとしたけど車で来たと言うのでそのまま見送った。
「あのカップルもラブラブだよな」
「そうなのか」
「お前が来る前は惚気大会してたから」
「何だそれ」
笑いを移されながら依を見ると、うつらうつらと頭を揺らしていた。
俺が居ない間色々楽しんでいたらしい。今の状態じゃ本人の口から聞けそうになくてやっぱり悔しい。
「俺等も帰るわ」
「また集まろうぜ。いつになるかは分かんねぇけどさ」
「おう」
タクシーを呼んで、依を奥に乗せてから乗り込もうとした時、ふとマンションを見上げた。十階はあるか、結構な高さで、五階端のベランダから顔を出した奴と目が合う。
こっちにヒラヒラと手を振っていて、俺も振り返す。住宅や外灯の明かりとその部屋から漏れる逆光の中で、目をギュッとさせた笑顔が確かに見えた。
会えて良かった。
またみんなで会おう。
依は実家暮らしだ。着いて見ると自分家ではないが懐かしく感じる。鍵を拝借して代わりにドアを開けた。
地元を離れてたのは二年程度。目まぐるしい日々のひと時の休息に、この静かな空間で思い出す記憶は遠い昔の様に感じる。
リビングのソファーに座らせて水を注いだコップを渡した。少しずつ飲む姿を眺めていると、裾を摘ままれた。徐ろに目線が上がってくる。
「……泊まるんでしょ」
「おう」
「いっしょに、ねよう」
抑えていた欲が沸く。小さく開く口元を見つめて、肩に手を置いて顔を近づけた。背もたれに倒れるのを支えながらコップを取ってテーブルに乗せる。横に寝かせて上から口付けを深くする。
その顔はうっとりとして、腕を掴んできた。
「ここでねるの……?」
「……いや」
客用布団を敷いたそこに大の大人二人で横になる。依は胸元に顔を埋めて抱きついて小さく寝息を立てている。
素直なのは良い事だけど。
期待してたのと違う。
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