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二十歳 大護-4 心の中

 まだだ。  まだ俺以外を考える余裕がある。他の奴が一瞬でもチラついて、周りの考えや立場を気にしてる。  気持ちが俺に向いてるのは分かっていた。だからまだ、ゆっくり待てる。忍耐力には自信がある。  そう思ってた。  酔っているフリをしていた訳じゃないけど、おかげで気になる事を色々聞いた。  誠は開き直って笑っている。 「誠って酔うと笑い上戸になるんだな」 「はぁ? 酔ってねぇよ」  その台詞知ってる。酔ってる人がよく言うやつ。 「なんだ、じゃあもう言っていいんだな」  座り直すと、一変して(あで)やかな笑みを浮かべた。 「大護、好きだ」  ゆっくりと動く口元を見ていた。  顔や態度に出てしまっているのを見た事はあったけど、はっきりと言葉にされたのは、初めてだ。  不意に手が伸びてきて抱き締められた。膝の上に乗って首元へ顔を埋めたのを静かに目で追う。  待ちすぎて、耐えすぎて、感覚が狂ってるのかもしれない。目の前で欲情している様子を冷静に観察する自分がいる。  俺の腰のベルトを外そうとする手を掴んで、もう一度その体を床に倒した。  尚くっついてくる体を押さえて解けたベルトで両手首をまとめて縛る。 「拘束プレイ……?」  腕を上げると裾から素肌が見えた。熱を帯びる瞳が俺から離れない姿に、恍惚として自分の口端が上がる。 「何もしないよ」 「……は?」  側にあったゴミ袋を取って立った。  誠が足をジタバタさせても、やっぱり酔ってるから上手く起き上がれそうにない。 「ふざけんな大護ッ! 抱けよ!!」 「酔ってるでしょ」 「酔ってねぇってばッ!」  放置して皿を棚へ片付ける俺へ叫んで、同じ掛け合いを繰り返した。あからさまに不機嫌に唸る姿も可愛い。 「マジで、大護しかいねぇんだよ……。さっきアイツの話、した時だって少しの引っ掛かりも感じなかった。未練も何もない、前以上にアイツを友達だと思えてるって思ったんだ。俺が好きなのは、お前なんだ……」  テーブルの上を拭く手を止めて、ボソボソ話す顔を見やる。チロリと目線が来て今度は無言で訴えてくる。 「シラフでも同じ事言えたら、抱くよ」 「ッだから、酔ってねぇってばあ! お前見ながら一人でするぞコラァ!」 「え、いいよ」 「しねぇよッ!」  熱の冷めない体に悶えるのを優しく宥めた。頭を撫でられながら色っぽい声音で何度も俺を呼んで、眠気がくるとやがて静かになった。本人のベッドへ寝かせた後も、その寝顔を暫く見つめていた。 「……今度、大きいベッド買いに行くか」  ルームシェアというていで暮らしてるから寝室は別だ。けど、これからは同じベッドで寝たいな。  眉を寄せて寝ぼけるのを見て、俺は珍しく小さく声を出して笑った。  昨晩の事を覚えているらしく、今朝は布団の中に篭って出て来なかった。呼びかけると黒い大福が反応する。可愛い。  近づいて手を伸ばした時、布団が広がって俺を覆った。 「ムササビ……?」 「大護――」  暖かく、狭い空間の中で囁かれた。  しかめ面でも頬を染めていて、どうだ、と言わんばかりだ。  長く待ち望んだ瞬間に心が揺れる。  顔を近づけて、額同士をこすり合わせて目を伏せた。 「……俺も好きだよ」 「――……という訳で、付き合い始めた」 「ご馳走様です」

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