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二十歳 依-63 一挙手一投足

「いつまでそうしてんだ。時間無くなるぞ」  布団の中に籠る俺に言う。時間ならまだ午前六時過ぎ頃だろう。習慣のランニングから帰ってきた奴はスポーツドリンクを持っていて、俺に渡してくる。布団を羽織るようにしてから何も言わず受け取った。一口飲んで、ふぅと息を吐く。  酒を飲む前は、酔っていた時の記憶は覚えている方が良いと思っていた。起きた時に理解不能な惨状の中にいたら嫌だから。でも、覚えていてもこれはこれで……。 「着替えないなら脱がすぞ」 「……着替えます」  さっきから呆れた声で言ってくるが、目を合わせればフイと顔を逸らして口元を緩ませる。昨晩の話を出されないのも恥ずかしい。でも言えば遠慮なくからかわれそうで、何にせよ嫌だ。酒は控えよう。  二日酔いは多分軽い方だ。残りのドリンクをゆっくり飲み干して、気分は悪くない。着替えて一階へ下りて見ると朝食を出してくれていて、冷蔵庫の中のものを使ったと事後報告された。しじみを買っていたらしく、そのお味噌汁もある。 「ありがとう……」 「ん」  夏道は向かいの席について、手を合わせて食べ始める。朝日がカーテンの隙間から差し込んで、光と共に空気が少し暖かくなるのを感じる。静かな朝の空間に二人きり。何気なくされることとその姿は心にしみて、面映げに手元を見つめた。 「飛行機じゃ一時間半くらいで向こうに着くけど、それ以外の移動もあるからな。食ったら出るぞ」 「うん」  一泊二日では荷物は小さく、大きめの肩下げ鞄をそれぞれ持った。電車に乗って空港まで、空港でも様々な手続きは夏道がしてくれた。声や手を出そうとしても率先して行かれて特に何も出来なかった。  「俺だって出来るのに」、そう呟いたら、微笑んで頭をポンポンとされた。一瞬触れた温もりと感触に半分浸りながらもムッとした表情をしてみせた。  大阪の空港へ着いて京都までバス移動する中、観光する場所を探す。旅行へ行こうと誘われたのは今年の正月だった。それから特に話し合いもなく今日が来て、夏道が予約したという宿以外は無計画だ。その宿についても話を聞けていない。 「行ったことない場所もいいんだけどさ、修学旅行で行った所もっかい見に行くとかどうだ?」 「いいね。行った季節も違うし、違った景色が見れると思う」 「だろ」  空港で手に取ったパンフレットや携帯で調べた場所を見せ合う。窓の外を流れていく景色は似たようでも見慣れない建物や看板があって、地元から離れた実感が徐々に湧いてきた。  観光スポットは見頃の時期から少し逸れているから、人が多く感じてもまだ少ない方だと思う。行く道に沿う建物は日本家屋の落ち着く雰囲気で、日本人で良かったなんて情緒も感じる。食べ物や工芸品が並ぶお店も一つ一つ眺めた。  周りを見渡しながら進む夏道を見た。文字通り頭一つ飛び抜けて目立っていて、何度も見送っている広く大きな背中は顔が見えなくても誰か分かる。ふと気になった品を近くで見たのちキョロキョロしだして、俺と目が合った。  手の動き、足の運び、風に絡まれる短い髪の揺れ、真っ直ぐに俺を見る目。人の柱たちの間からこちらへ来るまでの数歩も、ただじっとして目に焼き付けていた。

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