157 / 161

二十歳 依-64 旅の思惑

「離れんなよ」 「……良いのあった?」 「おう」  買う物はみんなへのお土産だけと決めていた。手渡しは難しいから郵送するのを土産物と言えるかは分からないが、ここで買った物を贈りたい。  夏道が可愛らしい饅頭を指差した。ご当地キーホルダーのいくつかを取っているのを見て、俺はこの和菓子を含め食べ物系を買う。ウケ狙いのようできちんとした物を選ばない自分達に内心苦笑する。短い内容の手紙を添えて宅配サービスで早々に送り出した。  手を、相手の手と共にダウンジャケットのポケットへ収監されてしまった。 「……離してよ」 「お前がいちいち離れるから」  そうしなければ姿を堪能できないから仕方ないんだ。わざわざ細道を行ってるだろうと言うけど人通りが全く無い訳ではない。その気配がするたび脱獄してまた収監されてを、もう何度か繰り返している。指同士を絡めて拘束までされて、恥ずかしくてたまらない。 「昨日みたいに素直になれば」  言いながらニヤリとして横目で見てくる。徐ろに眉を寄せてそっぽ向く。  細道は神社に繋がっており、建物に囲まれた中に悠然と立つ御神木や、社を眺めた。参拝した後、携帯で写真を撮っている夏道を見ていた。宿泊先へ向かう頃には歩き回った疲れが足にきていた。 「もう少し見て回りたかったけどなぁ」  体力の有り余る奴の呟きは聞き流す。チェックインの時間も決まっているから無理だ。澄んだ水色が静かな橙色へ変わっていく空にはカラスが飛んでいた。  旅館へ着くと一層の別世界を感じて息を呑んだ。山に面した場所に佇んでいて、手入れの行き届いた日本庭園にも目や足が止まる。自分が場違いに思う上品さを感じながら、夏道に腕を取られて敷地内へ入った。  案内された部屋もゆったりとした和室の空間で、奥の窓の向こうにはテラスや露天風呂が見える。素敵な旅館だとときめく前に冷や汗が出て、後から入ってきた夏道に顔を向けた。 「いくらしたの」 「まぁ、良いとこ選んだからな」  誤魔化そうとするのを黙って見つめたままでいると夏道は首を掻いた。宿泊先については特に何も言わず、値段を聞いても濁していた理由が分かった。 「心配すんな。ずっと使わずにあった小遣い使っただけだから」 「……俺も今回の分とってあるから。ちゃんと返すよ」 「言うと思ったけどさ。いいって、この旅は自分の為みたいなもんだし」  そう言って歩み寄ってくる。背は伸びたはずなのに、こいつも容赦なく伸びるから身長差は高校の時から殆ど変わらない。  肩に手を置かれて、顔が視界を埋めた。反射的に目を瞑るとすぐに深く口付けをされて、体を支えられながら床へ崩れ落ちる。その拍子に離れても間を置かず迫られる。  ささやかなキスではない。一瞬開いた隙を突いて舌が入って、硬くする俺のに触れてきた。首に添えられる手の指圧を感じる。ぎゅっと掴んだ服を引っ張った時、唾液の絡む音がした。  顔が熱い。  ゆっくりと離れた気配に目を開けると、夏道は舌舐めずりをして俺を見下ろしていた。 「……気兼ね無くやりたかったんだ」

ともだちにシェアしよう!