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第2話
美味しそうな匂いを漂わせた室内で、先にするべきなのは食事では……そういうつもりで抵抗するが、織辺の解釈は違った。
「何、抵抗してんだよ」
眉間に皺を寄せ、宮代を睨み付けるその瞳は、先程までの織辺とは別人のようだ。
――冷たく、射貫くような……鋭い、視線。
宮代は一瞬だけ台所に視線を向けるも、すぐに目の前で跪く織辺へ、視線を戻した。
「いえ……何でもありません」
呟く宮代の視界が、突如――揺れる。
ソファに座っていた筈の体が、何故か倒れていて……ほんの少しだけ遅れてやってきた鈍痛に、頭を殴られたのだと気付く。
宮代は露わになっている片目で、織辺を見上げる。
買ったばかりの服が乱暴に引き裂かれ、首に巻いていたストールさえも奪い取られた宮代は、馬乗りになった織辺に上半身を見つめられた。
ストールで隠していた首元には、織辺が付けたどす黒いキスマークと、噛み痕。紐状の物で絞められた痕跡も、残っている。
上半身には、引っ掻き傷や殴打による痣がハッキリと残っていて、肌の白さがより、痛々しさを演出していた。
傷だらけの首に、大きな手が添えられる。その手は、何の前触れも無く突然、宮代の首を絞め始めた。
「抵抗なんてするんじゃねぇよ。危うく、嫌いになるところだっただろ」
「は……ぁ、う……ッ!」
「返事」
首を絞められたままだというのに、返事を求められた宮代は……息も絶え絶えに、声を絞り出す。
「は、ぃ……ッ」
苦し気に返事をする宮代を見下ろしたまま、織辺は首を絞める手に力を籠める。自身の首を掴んでいる手をどかそうと、手を伸ばしかけて――宮代は、ソファを握った。
宮代の葛藤を見て、織辺はほくそ笑む。
「可愛い犬だ。愛してるよ」
そう言い、首を絞めたまま織辺は、宮代にキスをする。僅かな酸素も奪われて、宮代は生理的な涙を浮かべた。
長い長い口付けに、苦しさを感じていた宮代だったが……ギリギリのところにまで落とされ、ぼんやりと考える。
――このまま、織辺の手で、処分してくれたら……。
そう考えた刹那、唇と手が離れた。
「っは! ハァ、ハッ!」
手が離れるその瞬間まで、呼吸を諦めていたというのに……宮代は卑しく、酸素を取り込む。
涙を流し、浅ましく呼吸を繰り返す宮代を見下ろしながら……織辺は口角を吊り上げた。
「はははっ! 酷い面だなっ!」
肩で息をしたまま見上げると、潤む視界の中で織辺と目が合った……気がする。
織辺が終始、愉快そうに笑っている様を見て……宮代も、つられるように笑みを浮かべた。
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