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第6話

 直前になって、体を洗ってくれる気が失せてしまったのかと、宮代は落ち込む。仕方なく自分で体を洗おうと、バスチェアから腰を浮かし掛けたその時……織辺が戻ってきた。  瞳を輝かせそうになるも、織辺の手に握られた物を見て……宮代は、一瞬にして腰を抜かす。 「え……っ」  青ざめた表情で、宮代は織辺が持つ物を見つめる。  ――それは、カミソリだ。  先程まで、汗をかく程熱くなっていた体が、恐怖により一瞬で凍り付く。  織辺が見ていたのは、逸物だ。それを『邪魔』だと言い、カミソリを持って戻ってきたということは……導き出される意図は、一つしか無いだろう。 「脚開け」 「な、何で……いきなり……っ?」 「思い立ったが吉日ってやつだ。剃り落としてやる」 「ッ!」  自分が、世界で一番幸せな人間だと、愛しい人に愛された人間だと……信じて疑わなかった。  けれど、それは織辺が【男の宮代】を愛してくれているからこそ、得られた確信だ。もしも、織辺が宮代に飽き……女を、愛したら? その可能性に気付き、宮代は脚を閉じる。  勿論、指図に従わない宮代を見て……織辺が何とも思わないわけが、ない。 「お前は、同じことを二度も言わせるつもりか」 「だ、だって――」 「動脈掻っ切られたくなかったら、脚を開け」  タイルに膝をつき、織辺に見上げられる。カミソリの刃は、しっかりと宮代に向けられていた。  明確な脅しに、宮代は恐る恐る脚を開く。  織辺の手が、宮代の内腿に添えられる。そしてそのまま、萎えている逸物を、指で撫でた。堪らず、宮代は息を呑んでしまう。  何か言わなくては、このまま男としての威厳を失ってしまう……そう思った宮代は、震える唇を何とか動かし、言葉を探した。 「せ、せめて……痛くは、しないで……くだ、さい……っ」  宮代の言葉に、織辺は一瞬考え込んだ後……小さく、頷く。  ――そして、予想外のことを口にした。 「いくらお前がマゾでも、シェービングクリームくらい付けてやらねぇとな」  耳を疑う言葉に、宮代は目を丸くする。何故なら、織辺が口にした名称は……剃毛の際に使う道具だったのだから。  そこでやっと、宮代は『誤解していたのだ』と気付く。  ――そう。織辺が『邪魔』と言ったのは、宮代の陰毛だったのだ。  誤解が解けてホッとしたのも束の間……新たな焦りが浮かび上がる。  ――自分は今から、好きな人に剃毛されるのか……と。  シェービングクリームを用意し始める織辺を見上げて、宮代は脚を閉じた。 「わざわざ、織辺さんがしなくても……オレ、自分で剃りますよ?」  織辺の手を煩わせまいと、善意のつもりで提案したことだったが、織辺にはそう聞こえなかったらしい。  シェービングクリームを持つ織辺は、カミソリの刃を素早く……宮代の首筋に押し当てた。 「誰が。脚を閉じていいっつった?」  思わず、体を硬直させてしまう。  ――結局……宮代に拒否権など無いのだ。

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