6 / 10
第6話
直前になって、体を洗ってくれる気が失せてしまったのかと、宮代は落ち込む。仕方なく自分で体を洗おうと、バスチェアから腰を浮かし掛けたその時……織辺が戻ってきた。
瞳を輝かせそうになるも、織辺の手に握られた物を見て……宮代は、一瞬にして腰を抜かす。
「え……っ」
青ざめた表情で、宮代は織辺が持つ物を見つめる。
――それは、カミソリだ。
先程まで、汗をかく程熱くなっていた体が、恐怖により一瞬で凍り付く。
織辺が見ていたのは、逸物だ。それを『邪魔』だと言い、カミソリを持って戻ってきたということは……導き出される意図は、一つしか無いだろう。
「脚開け」
「な、何で……いきなり……っ?」
「思い立ったが吉日ってやつだ。剃り落としてやる」
「ッ!」
自分が、世界で一番幸せな人間だと、愛しい人に愛された人間だと……信じて疑わなかった。
けれど、それは織辺が【男の宮代】を愛してくれているからこそ、得られた確信だ。もしも、織辺が宮代に飽き……女を、愛したら? その可能性に気付き、宮代は脚を閉じる。
勿論、指図に従わない宮代を見て……織辺が何とも思わないわけが、ない。
「お前は、同じことを二度も言わせるつもりか」
「だ、だって――」
「動脈掻っ切られたくなかったら、脚を開け」
タイルに膝をつき、織辺に見上げられる。カミソリの刃は、しっかりと宮代に向けられていた。
明確な脅しに、宮代は恐る恐る脚を開く。
織辺の手が、宮代の内腿に添えられる。そしてそのまま、萎えている逸物を、指で撫でた。堪らず、宮代は息を呑んでしまう。
何か言わなくては、このまま男としての威厳を失ってしまう……そう思った宮代は、震える唇を何とか動かし、言葉を探した。
「せ、せめて……痛くは、しないで……くだ、さい……っ」
宮代の言葉に、織辺は一瞬考え込んだ後……小さく、頷く。
――そして、予想外のことを口にした。
「いくらお前がマゾでも、シェービングクリームくらい付けてやらねぇとな」
耳を疑う言葉に、宮代は目を丸くする。何故なら、織辺が口にした名称は……剃毛の際に使う道具だったのだから。
そこでやっと、宮代は『誤解していたのだ』と気付く。
――そう。織辺が『邪魔』と言ったのは、宮代の陰毛だったのだ。
誤解が解けてホッとしたのも束の間……新たな焦りが浮かび上がる。
――自分は今から、好きな人に剃毛されるのか……と。
シェービングクリームを用意し始める織辺を見上げて、宮代は脚を閉じた。
「わざわざ、織辺さんがしなくても……オレ、自分で剃りますよ?」
織辺の手を煩わせまいと、善意のつもりで提案したことだったが、織辺にはそう聞こえなかったらしい。
シェービングクリームを持つ織辺は、カミソリの刃を素早く……宮代の首筋に押し当てた。
「誰が。脚を閉じていいっつった?」
思わず、体を硬直させてしまう。
――結局……宮代に拒否権など無いのだ。
ともだちにシェアしよう!