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第8話
――つるりと、綺麗な局部……その事実が、堪らなく、怖い。
「お、織辺さん……そんなに、丁寧にしなくても……っ」
傷付けられ、傷痕の残る体こそ、織辺に愛された証拠。そう考える宮代にとって、傷一つ無い綺麗な局部は、不安要素でしかなかった。優しく扱われ、慈しまれることに喜びを見出すことはあっても、宮代の根底は【暴力こそ最上級の愛】なのだから。
宮代の訴えに、織辺は剃毛を続けながら返事をする。
「刃物を扱ってるんだ。丁寧で何が悪い」
「少しくらい、切れても――」
「オイ」
カミソリの動きが止まり、宮代は肩を震わせた。
――自分を見つめる織辺の表情が、怒りに満ちているのだから。
「黙って剃られてろ」
冷たく突き放され、宮代は泣き出しそうな顔で局部を眺める。
愛しい人の手で、産まれたままの姿に戻されていく羞恥心は、勿論残っていた。けれど宮代にとって、綺麗な部分が増えるのは……どんな暴力よりも辛いことだ。
もう少しで、剃り終わってしまう。もしも今、宮代が身じろげば……宮代の望む形にはなる。
――だが……そんなことをしたら、織辺は許してくれないだろう。
唐突に襲い掛かってきた不安は、瞬く間に宮代の心を埋め尽くした。
「嫌、だ……っ、もう、剃らないで……っ」
織辺が宮代の要望を、聞き入れる筈がない。
無慈悲にも、織辺は宮代の局部に生える陰毛を……傷一つ付けることなく、完璧且つ綺麗に、剃ってみせた。
シャワーで、シェービングクリームと剃られた毛を洗い流し、織辺は満足そうに頷く。
「綺麗になったな」
織辺は顔を上げ、目を丸くする。
――頭上では、宮代が綺麗な顔を歪ませて、泣いていたからだ。
持っていたカミソリを自分達から離し、織辺は宮代の目元をこする。その優しさに、宮代は何度も首を横に振った。
「嫌、嫌です……っ、綺麗で、怖い……ッ」
「は? 『怖い』? 何で」
「オレ、オレ……織辺さんが、いないと……駄目だから……ッ」
「はぁ?」
傷付けられることこそ、究極にして至高の愛だと思っているのは、被害者の宮代だけ。加害者の織辺には、その気持ちが分からない。
泣き止む気配の無い宮代に苛立ち、織辺は嘆息する。
「痛くしないでっつったり、綺麗なのが怖いっつったり……めんどくせぇ」
織辺からすると、宮代の言葉には一貫性が無い。相反する言葉を並べられ、短気な織辺が機嫌を害さないわけがなかった。
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