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第4話
「そう言えばお店の方は順調なんですか?新しい方が入られたとか言われてませんでしたか」
津田のギムレットを作りながらマスターが問うた。
「ああ、よく覚えてたね。あれでしょ、前の店から追っかけて来た純情青年・・・」
頬杖をしながら煙草をふかす。
ここでその話をしたのは1か月前だ。
あの時は少しだけやさぐれていた。
***
自分と一緒に急遽、転勤となった店長を追って来た奴が居た。
前の店で一緒に働いていたバイトリーダーの子だ。
『ここでバイト急募しているって聞いたので』
面接に入っていなかった店長ー佐藤ーは、その子の初出勤時に腰を抜かす。
『就活中なのにどうして・・!』
佐藤は津田がいる事もすっかり忘れて、その子ー相澤ーに食ってかかる 。
『店長と離れたままなんて、無理っす』
なんの躊躇いもなくそう答えた相澤の言葉に、佐藤の顔がゆでダコのようになっていた。
(オイオイオイ・・・)
津田はそんな二人の様子を見ながら、半ば呆れる。
佐藤から相手がいることは教えてもらっていたが(恋愛相談まで受けていた時期もあった)
まさかの「男」で「追っかけて来るほど」の熱愛とは。
相手はノンケだと聞いていたはずだが・・
『・・まあ、取り敢えず今日から入って。色々話が早いから、助かったよ。相澤くん』
津田の言葉に、純情青年はものすごい勢いでお辞儀をした。
『ありがとうございますっ!!』
(勝手にやってろよ)
津田はそんな事を思いつつ、精一杯の「オトナの微笑み」を返す。
***
「うまくやってるよ、仕事もソッチも」
「棘のある言い方ですねえ、わからないでもないですが」
マスターがクスリと微笑む。
少しだけ佐藤が「好み」だっただけに、津田はやさぐれていたがそれもほんの2、3日。
次にマスターにあった時には違う「彼」をお持ち帰りしていたのだ。
その「彼氏」とももう別れてしまっていた。
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