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第5話
不意に背後から国産の煙草の香りがした。
津田の外国製の煙草よりもかなりキツイ香り。
「マスター、オーダーいいかな」
振り返って香りの元を見ると長身の短髪がいた。
あまり見ない顔だったが、この界隈ではモテる部類の顔をしている。
キツく見えるつり目にくっきり二重。
スポーツでもしていたのか、肩幅が広く、筋肉にも無駄がなさそうだ。
(こりゃ遊んでんなあ・・)
モテるであろうが、津田の好みではなかった。
主導権を握りたい津田にとっては合いそうにない。
「オーダーですね。どうぞ。何になされますか?」
男は、津田の横に立ち、メニューを確認しつつ背後を振り返った。
「俺はマティーニで、葵は何にする?」
(ん・・?)
葵、と呼んだその際にもう一人彼の連れがいた。
と同時に津田が大きく目を見開く。
パーマなのか癖なのか、柔らかそうな髪をハーフアップにしている彼は
まるでモデルのように「美しく」見える。
華奢な体つきなのに何処か凛としている。
「・・マンハッタンで」
少し不貞腐れたような掠れた声で彼が答えた。
(何だ・・・こいつ・・)
身体が雷に打たれたかのような衝撃に津田は襲われる。
「カクテルの王様」がマティーニに対し「カクテルの女王」がマンハッタン。
二人が濃厚な恋人同士である事は、明白だった。
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