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第9話

「ははは、マジで!!」 豊の声に津田はハッと我に帰る。 葵も顔を背けていた。 どうやら豊は隣の男とかなり盛り上がっているらしく、テーブルに身を任せながら いい感じになっていた。 「葵、ちょっとさ、オレ抜けてくるから。先帰ってなよ」 「・・ん。分かった」 豊の方を見ずに葵は酒を飲みながら、そう答えていた。 葵を残して豊と男が、一緒に店を出て行く。 クスクス笑いながら。 (マジかよ・・) どう見たってあれはそのまま、行為に及ぶだろう。 呆然としていると、酒を飲んでいた葵が顔をあげて津田の方を向いた。 そしてそのまま一直線に近づいてくる。 端正な顔がどんどん近づいてくるのを、津田は目を背ける事が出来ない。 「ねえアンタ」 焦がれていた葵の口から発せられた言葉に、疼きが止まらない。 「初めから、オレを見ていたよね」 「・・・」 津田はもう言葉を発することもできずにいた。 「そんなに気に入ってくれたの?それならさ」 煙草を咥えたままの口から、煙草を抜いて葵は津田の手をとる。 「お望み通り」 初めて間近で見た葵の瞳は、茶色で引き込まれそうになる。 誘われていてもどことなく感じるこの棘は何だ。 それでも疼いてしまう自分は何だ。

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