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第11話
どう言うつもりで葵が自分に近づいて来たのか、思案する時間もなく身体を重ねていた。
浮気現場を見せつけられた、豊への当て付けか。
自分に好意を持っているであろう人間への冗談のつもりか。
いずれにしろ、津田にとっては「棚ぼた」だ。
理由を聞いている間に醒めてしまうなら、醒めないうちに
触れていたい。
「んッ・・あっ、あ・・」
無表情の顔しか知らなかった葵の喘ぐ声に、津田はもう堪えきれない。
「もっと奥、ついてもいいか」
葵の背中を見ながら津田が耳元で囁いた。
その背中と腕に、うっすら斑点があることに津田は気づく。
「なに、言って・・ああっ」
葵の答えを待たずに、津田が思い切り突いた。
「ああ・・ッツ!!」
**
事が終わって、フロアに戻った二人はお互いに酒をオーダーして一息つく。
初めの無表情からは幾分か和らいだ葵の顔を津田は眺めていた。
「他人に執着したくないんだ」
葵がポツリと呟いた。
何処かで聴いたようなセリフだと、津田は微笑む。
「お前、あいつからDV受けてねえ?」
最中に見た、背中と腕の赤い斑点。
殴られた後と、煙草の火を押し付けられた痕だ。
「・・ああ、豊はちょっとSの気があって」
初めは優しかったんだけど、と紡ぐ。
「最近はもうオレを「アクセサリー」としてしか見ていないって」
だから今日も他の男と出て行ったのか。
津田が酒を口に含んだまま、凝視する。
「別にそれでも構わない、と思った」
先に何かあるわけでもない、こんな人生なら。
それは津田が感じていた無力感とリンクする。
「オレもさ、そう思ってたよ」
津田が葵の顔を見つめる。
「だけどオレはお前を見て「執着」したんだ」
こんな感情がまだ自分にあるとは思わなかった。
「・・そう」
葵がどのように自分の言葉を受け取ったのかは分からない。
ただ。感じていた棘のようなものはなくなっている気がした。
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