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第6話

 ジェスと怪しい男がレクター病院を出ると、まだ日は高いが、バールに入った。最近、レクターで流行っているという南洋の酒でマンゴーというフルーツが使われた酒・マンゴーシュが勧められる。 「じゃ、まずは乾杯ね」  レクター風の乾杯の掛け声で、ジェスと男はグラスを軽くぶつけた。 男の名前はファル・シターテ。偽名か、本名かは分からないが、ファル、と気軽に呼んでくれと言っていた口はなみなみに注がれていたマンゴーシュを飲み込んでしまった。 「いやー、同じマンゴーシュでもこっちの方が断然良いね」  ファルはマンゴーシュ、つまり、短剣を向けられそうになっていっていたのをジョークにすると、ジェスは冷静に話を進める。 「それで、あの病院には何が隠れている?」  レジオではジェスは人当たりの良い好青年で通っていたが、レクターという土地にはイルク以外の知り合いはいない。隙を見せたが最後、などということもあり、ジェスは必要以上に踏み込まないように心がけていた。 「あら? お兄さんっていかにも人好きしそうなのに見かけによらずつれないねぇ。まぁ、料理ももうすぐ来るからさ」  ファルは先程、頼んだ料理にもう何品か追加すると、樽を利用して作ったテーブルには料理や酒がところ狭しと並んでいった。 「なんか、こういっぱいあるのって良いよね。まぁ、こんなにいっぱいあっても、食べられないこともあるんだけど」  ファルはマンゴーシュにアイスクリームを浮かべたものを飲みながら、激辛の香辛料の振りかけられたローストチキンやフライドブレッドを頬張っている。  ちなみに、レジオでは野菜と少量の魚が中心のメニューだったこともあり、フルーツや肉といったものは本当に貴重で珍しかった。

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